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川内義彦の『ユニバーサル・デザイン』 [書評]

 本書はユニバーサル・デザインの建築家として日本をリードしている作者が、60人のアメリカのユニバーサル・デザイン先駆者への取材をもとに、ユニバーサル・デザインのあり方、取り組み方に関して、作者のフィルターを通して整理したものである。そういう経緯で書かれた本書は、ユニバーサル・デザインの理念に関してまとめられたもので、安直なユニバーサル・デザインの設計手法などは一切書かれていない。そして、安直に手法としてのユニバーサル・デザイン、キャッチーなマーケティング・コピーとしてユニバーサル・デザインに興味を抱いた読者に作者は強烈な冷や水を浴びせる。彼は日本が現状のユニバーサル・デザインの取り組みを続けるなら、国連で次のように発言してもらいたいと批判する。
 「我が国は豊かな国なので国民はみんなトンカツを食べることができますし、さらにみんなが柔らかで美味しいビフテキを食べられる社会を目指します。ただし高齢の人や障害のある人には粗食で充分で、彼らがトンカツやビフテキを食べるには、コストも含めた「正当な理由」が必要だと考え得ています」。

 作者はいう。「ユニバーサル・デザインが投げかけているものは、ものづくりに留まらない、その背後にある社会全体の価値観の問い直しなのです」。

 ユニバーサル・デザインの考えの基本から理解するうえでは、本書は、内容は重いが大変に参考になるだろう。内容が重いのはユニバーサル・デザインという考え自体が重いからであろう。そして、筆者のこの考えを避けて、ユニバーサル・デザインに取り組むことは難しいと思われる。ということで、ユニバーサル・デザインに取り組もうと思う人は必読であろう。ただし、自分の偽善性が炙り出されるようで、読後感はあまりよくないと思われる。

ユニバーサル・デザイン―バリアフリーへの問いかけ

ユニバーサル・デザイン―バリアフリーへの問いかけ

  • 作者: 川内 美彦
  • 出版社/メーカー: 学芸出版社
  • 発売日: 2001/04/30
  • メディア: 単行本



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