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武田邦彦『原発事故残留汚染の危険性』 [書評]

福島第一原発の事故以来、ブログにアクセスが集中している環境学者の武田邦彦氏の事故後から書き下ろしたのが本書である。超スピードで書かれたと思われ、編集に時間をかけずに急いで出版されたと思われる。頁数も少なく、字数も少ない。しかし、それでも、この超スピードで本書が出たことは非常に意味があったと思われる。なぜなら、今、我々が必要としている情報が、編集に時間をかけてないとはいえ、週刊誌や著者のブログに比べれば、それでも体系的に論じられているからである。

本書は3部から構成されている。第一部は、福島第一原発の事故はなぜ起きたのか。技術的な問題ではなく、人間による問題である、という分析が述べられている。第二部は、その人間による問題であるというのであれば、この事故の背景にはどういう問題が横たわっていたのかが分析されている。それは、日本社会が包含する本質的な問題、そしてその問題を克服できない未成熟な日本は原発を持つ資格がないことが理解できる。この第二部は、若干、怪しい論旨が展開されていたりするが、まあ、それら重箱の隅をつつくことは、全体の価値に比べれば些細なことである。特にこの第二部で最も傾聴すべき点として、東京電力が真の犯人ではなく、経産省こそが問題であると指摘しているとこが挙げられる。幾つか引用をさせてもらう。
「つまり官僚の縄張りの犠牲になり、原子力というものがどのくらい大きな技術であるかということが蔑ろにされるようになったのです」
「著者はテレビで保安院の会見を見て、一度も謝らないのにビックリしています。原子力の安全確保を図る組織として許認可権や審査権を持ち、普段から安全の指導をしているわけですから、その許認可や審査、安全指導が間違っていたということが大きな事故で証明されたわけです」
「国は悪いことをしない、したがって国の人はどんな間違いをしても処罰されることはないという建前を貫いていれば、原発のような大きな技術を日本で続けることはできないと思います」 
 まさに経産省は保安院を止めますか、それとも原発止めますか、という選択肢を考えるべきであろう。著者は「保安院を解体し責任者を処罰する」べきであると主張するが、ここらへんの指摘は福島元県知事の佐藤栄佐久氏とも通じており、原発問題の真犯人であるのが経産省であることが、改めて本書からも確認できる。
 そして第三部は原発の事故、特に残留放射線からいかに身を守るのか、ということが書かれている。ここは、まさに著者のブログにアクセスが集中している理由、すなわち自分達がどの程度、危機的状況にあるのかを知りたいというニーズに応える内容になっており、大変参考になる。私もいろいろとにわか勉強をしていたが、この本を読んで、放射能の怖さを過小評価していたことを知り、愕然とする。この残留放射線は相当危険であり、これからこんなものに30年間もつきあわなくていけないのか、という事実に呆然とさせられるが、著者はさすが科学者であり、元旭化成ウラン濃縮研究所長を務めていただけあり、そこらへんは客観的な分析、推測が為されている。こういうことを書くのは気が引けるが、福島市は少なくとも子ども、若者が向こう30年間は住めるような状況でないことが確かであることが本書から理解できた。大変な事態である。ただし、それだからこそ福島市民の人にとって本書は必読本であると思われるのである。危機を煽っているのではない。危機は今そこにあるのである。そして、そのような危険を敢えて伝えない政府、マスコミこそが大きな裏切りをしていると思われる。とりあえず、その意見を否定するにしても、手にとって自らが判断してもらうことが必要であろう。

原発事故 残留汚染の危険性

原発事故 残留汚染の危険性

  • 作者: 武田 邦彦
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2011/04/20
  • メディア: 単行本



タグ:武田邦彦
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