SSブログ

小出裕章『隠される原子力 核の真実』 [書評]

 副題は「原子力の専門家が原発に反対するわけ」。著者は福島第一原発の事故後、良心の原子力科学者として脚光を浴びている京都大学原子炉研究所助教。福島第一原発の事故後、これから原子力行政を批判する本は多く出版されるであろう。本書がそのような本と一線を画すのは、事故が起きるちょうど2ヶ月前に出版されているということである。本書を読むと、福島の事故は、想定外ではなく起きえた事故であることが理解できる。また、その事故の影響が甚大であり、相当の危機意識を持つべきものであることを推察できる情報に満ちている。本書は、事故後にセンセーショナルにその危機を煽ったり、反対にその影響を過小評価させようと意識したりしたものではなく、あくまで一般論として原発の危険性、そして原発の事故がもたらす影響をチェルノブイリ、六ヶ所村の事例を通じて紹介しているので、福島第一原発の事故の影響を客観的に分析しようとする基礎情報を与えてくれて、ポスト・フクシマの基本書としては極めて優れていると思われる。それは、とりあえずこの危機を使って本を売ろうといった儲け主義的編集方針が本書には一切ないからである。
 頁数は157頁と少ないが、12章から構成されている内容は網羅的である。原発の何が問題であるかを理解するうえでの必要最小限の知識はこれで得られるであろう。原発の非効率性、そして原発から足を洗うことの容易性、そして何より被曝の危険性など、ポスト・フクシマで生き延びていかなくてはならない東日本の人々にとっては必要不可欠な情報が含まれている。

あとがきで筆者は次のように述べている。
「この40年、一刻も早く原子力を廃絶させたいと私は願ってきました。しかし、国と巨大企業群が進める原子力を止めることはできずに今日に至ってしまいました。原子力施設の立地を狙われたいわゆる「過疎地」では、多くの人々が立ち上がりはしましたが、傷つき、倒れていきました。
 そういう人達の求めにこそ従いたいと思い、私は自分にできる仕事を探しました。一般的な誰かに向けて本を書くという作業は、私にとっては気の乗らない仕事でしたし、今でもそうです。」

しかし、一読者としては、「気の乗らない仕事」であっても本書を出版してくれたことに心から感謝したい。チェルノブイリでは被災者には情報が伝えられなかった。日本でも、福島第一原発の事故後、経産省をはじめとして文科省までもがSPEEDIをはじめ、情報があったにも関わらず伝えることをしなかった。しかし、日本はチェルノブイリのロシアと違って、出版の自由、言論の自由が最低限、確保されている。それによって、東京をはじめとした東日本に生活する人々がどのような危険に晒されているかを、本書などから知ることができる。繰り返しになるが、そのような本が、事故以前に出版されていたことが有り難い。このような事故が起きなければ本当によかったが、起きてしまった今、本書などから、現在、我々が置かれている情報の危険性、そして原発の危険性(本書は六ヶ所村がいかに危険であるかを主張している)を知ることが、生き延びるためにも、我々には何より求められているのではないだろうか。

隠される原子力・核の真実―原子力の専門家が原発に反対するわけ

隠される原子力・核の真実―原子力の専門家が原発に反対するわけ

  • 作者: 小出 裕章
  • 出版社/メーカー: 創史社
  • 発売日: 2011/01
  • メディア: 単行本



タグ:小出裕章
nice!(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0