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世界遺産都市ワイマール(ヴァイマール)はゲーテとバウハウスによって現在も特別なアイデンティティを有している [都市デザイン]

ドイツのチューリンゲン州にあるワイマールを訪れる。都市全体が世界遺産に指定されると同時に、市内にあるバウハウス建築群も世界遺産に指定されるという、同一市内に二つの世界遺産があるという特異な都市である。ワイマールはグロピウス等によってバウハウスが90年前に設立された。その後、ヒットラー政権によってバウハウスは社会主義的だ、ユダヤ的だとの誹謗中傷や批判を受け、1925年にはデッサウに校舎を移転せざる終えなくなる。このデッサウ校も1932年にはベルリンに移行し、それも1933年には廃校せざる終えなくなるのだが、広告芸術まで手を伸ばし商業主義的色合いを強くしたデッサウに比べて、このワイマールでのバウハウスの活動はサステイナブルな社会デザインを考えるうえでも多くのヒントを与えるような偉大な活動をしていたと思われる。ベルギーの建築家であるルシアン・クロールに以前、取材した時、彼はワイマールでのバウハウスの活動に強い影響を受けたと述べていた。時代が変革する時、過剰な意匠が好きなドイツにおいてバウハウスが起こったことは興味深い。

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(バウハウス博物館)

ちょうど訪問した時は、バウハウス設立90周年ということで大規模な展示が、市内の多くの博物館で行われていた。ワイマール時代のバウハウスに関する展示が多くされていたのだが、当時のバウハウスがいかにその時代、そしてその後の時代において重要な役割を果たしたのかということがよく理解できる。パウロ・クレー、ワシリー・カンディンスキー、モホリ・ナジといった蒼々たる講師達の作品の展示のボリュームに驚く。ワイマールもデッサウもバウハウスの学校が存在したことで、特別なアイデンティティを有することになる。ワイマールはドイツ史的にも神聖ローマ帝国時代にはザクセン・ワイマール公国の首都であったり、ワイマール憲法がこの都市でつくられたりと、重要な役割を演じてきた色鮮やかな都市であるが、デッサウははるかに地味な都市であることとグロピウス設計の校舎やミース・ファン・デル・ローエ等の講師の家々が保存されていることなどから、まさにバウハウスの街といった趣がある。とはいえ、ワイマールにも大学本部棟やヴァン・デ・ヴェルデの建物、ギョルグ・ムッヘ設計のハウス・アム・ホルンなどが存在していて世界遺産に指定されている。

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(ハウス・アム・ホルン)

しかし、ワイマールがデッサウに比べてそのバウハウス的イメージが強くない理由の一つとして、より強烈なアイデンティティをこの都市が有していることが挙げられる。そのアイデンティティとはゲーテである。ゲーテという超人が生活をした都市であることが、この都市をドイツ人にとって特筆すべき都市として格付けられていると思われるのである。ドイツ人を理解するうえでゲーテというキーワードは極めて重要であるな、ということはここドイツで生活をし始めて理解することができた。しかし、どのように重要であるかは個人的にはまだ不明である。ワイマールはゲーテの家やゲーテの庭園などがあり、これらを訪れることでゲーテの思想や人生観をある程度、理解することができる。特にゲーテの庭園は素晴らしく、ゲーテがいかに自然や田園的な景観を愛していたかが察せられる。そのデザインから感じられるのは、自然観に対する深い愛情である。ドイツ人のエコロジーや自然を大切にする考え方は、こういうところで長年に渡って育まれたのではないかと思わせる。

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(市庁舎)

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(ゲーテの庭園)

天才をいかに都市づくりに活かすか、というのはその都市のアイデンティティを形成し、その都市の魅力を発揮するためだけでなく、後世の人々に、人類の共有財産であるその天才の業績等を伝える博物館的な役割を果たすためにも重要である。それが非常にうまく行われたのは、ガウディのバルセロナであろう。ここワイマールもゲーテをうまく活用し、ゲーテの博物館的な役割をもしっかりと果たしている。都市は人類の記憶装置でもある。しかし、ドイツと比べると日本はその機能を博物館という箱物に押し込め、都市を博物館的なものとして捉えていないのではないかと思われる。それは、都市としてももったいないことだし、博物館としても今ひとつであると思われるのである。なぜなら、箱物である博物館が、記憶装置、展示装置としても最適であるとは思えないからである。バルセロナという都市に匹敵するガウディ博物館がつくれないことを考えると理解してもらえるのではないか。日本の都市づくり、まちづくりにおいても、この都市の記憶装置、展示装置といった点をより重視することが求められるのではないかと思われる。それらを考慮にいれた都市デザインをすることで、都市の魅力が大幅に向上する可能性を有している都市がきっとある筈である。さっと思いつくと、豊島区の椎名町なんかは藤子不二雄や赤塚不二男などの漫画関係の展示都市として都市デザインできると思われる。マンガが世界的なコンテンツとして捉えられている今、そのような試みをする必然性も高まっているのではないだろうか。
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