SSブログ

シャロン・ズーキンと東京の下町巡りをする [グローバルな問題]

『ロフト・リビング』や『ランドスケープ・オブ・パワー』、『カルチャー・オブ・シティ』、『ポイント・オブ・パーチェス』といった著書で日本でも知られるアメリカの社会学者シャロン・ズーキンが来日している。東京で開催されたシンポジウムに講演者として招聘されたためである。そこで帰国日の今日、東京を案内して欲しいというので、車を出して東京の下町巡りをして、そのまま成田空港まで送っていくことにした。


Landscapes of Power: From Detroit to Disney World

Landscapes of Power: From Detroit to Disney World

  • 作者: Sharon Zukin
  • 出版社/メーカー: Univ of California Pr
  • 発売日: 1993/02
  • メディア: ペーパーバック



The Cultures of Cities

The Cultures of Cities

  • 作者: Sharon Zukin
  • 出版社/メーカー: Blackwell Pub
  • 発売日: 1996/01/30
  • メディア: ペーパーバック



Point of Purchase: How Shopping Changed American Culture

Point of Purchase: How Shopping Changed American Culture

  • 作者: Sharon Zukin
  • 出版社/メーカー: Routledge
  • 発売日: 2003/11
  • メディア: ハードカバー


宿泊先の鳥居坂のインターナショナル・ハウスに朝の10時に迎えに行く。旦那さんのリチャードも一緒である。『下流社会』の三浦展さんがシャロン・ズーキンの取材をする時に同行して会って以来なので2年半ぶりだ。とはいえ、全然、変わっていない。相変わらず、おしゃべりパワーは健在だ。

さてさて、最近の東京の開発動向を知りたい、というのでお台場、オリンピック村候補地、そして豊洲を車でめぐる。お台場は、最近、公務で訪れたので多少は説明できるが、アクアシティは私も来たのは初めてであった。こういう場所は個人ではとても来たくない、ので来たことがなかったと白状する。シャロン達も、ニューヨークに長年住んでいるがエンパイア・ステート・ビルディングには一度も行ったことがないから分かる、と納得してもらった。シャロンもリチャードもアクアシティに英語が氾濫していることに驚いていた。しかも、綴りが違っているのが多いのと英語の意味をなさないものが多いことで二度、驚いていた。「なんで、こんなに英語なのだ」と不思議がっていた。シャロンは日本のファンである。なるべくアメリカ文化でないものを日本に見つけにきているので、お台場は興ざめであったようだ。とはいえ、さすが社会学者。勉強になるわ、と好奇心の目をあちこちに向けまくっていた。お台場はマンハッタンのバッテリー・パークのようなものだ、と説明すると、確かにこのアクアシティはサウスストリート・シーポートに似ていると分析する。サウスストリート・シーポートは日本でもバブルの頃、一世を風靡したジェイムス・ラウスによる開発(日本でも天保山の事業企画に参加するが、途中でいなくなる)であるが、なんと商売がうまくいったことは一度もないことを知っているか、と聞いてきた。この情報には驚いた。「え!だってあんなに人が入っているじゃない」と聞き返すと、人は来ても消費はしない、とのこと。こういう情報は日本の文献や日本人からはめったに聞き出せない。そうだったのか。てっきり成功事例と思っていたので意外であった。

さて、次はオリンピック村の候補地などをめぐる。歩こうかと思ったが、駐車場がみつからないので自動車で見るに留める。そして、豊洲。東京都の最新の再開発プロジェクトである。おそらく東京で最も広い道路が走っている。片道4車線である。なんか、日本の最先端の都市開発であるにも関わらず、世界の脱自動車の流れと逆行している。ボストンのビッグ・ディッグなどの事業やソウルのチョンゲチョンの再生事業がなぜ、賞賛を浴びているのか。一度、ゆっくりと日本の都市計画事業に携わっている者は考え直すといいのではないか。シャロン達も、え!これが東京!という感じでショックを受けていた。「まあ、隠したいところですが、本当の姿を見せるのが僕の責任かと思いまして」と言い訳をする。ここも車から降りずに、予定にはなかった門前仲町に行く。ここでは、バー通りや富岡八幡宮などを紹介し、伊勢屋の豆大福をデザートに買う。

昼食は築地に行く。鮨つかさのちらし寿司を食べようと思ったら、なんとご飯がないから駄目、と拒絶される。まだ13時前なのになぜ?しょうがないので、勝どきの方の寿司大に行く。ここは、以前からコスト・パーフォーマンスがいいので贔屓にしていたのだが、今日はなんと板前が風邪をひいていて、鼻をずるずるさせて寿司を握っていた。これは、いくら何でもひどい。とはいえ、シャロン達が一緒だったので我慢をしたが、久しぶりに本当にひどい体験であった。二度と、寿司大には行くまい、と心の中で誓う。

さて、その後、砂町銀座に行く。砂町銀座は多くのアメリカ人の都市デザイナーは感動する。あまり、外さない。私的には相当、自信をもって連れて行ったのだが、シャロン達は感心はしてくれたが、大感動まではしなかったようである。社会学者であり、都市デザイナーのようにスケールに対してそれほど関心がないこと、ニューヨークはグリニッチ・ビレッジに住んでいるので、さほどこのような商店街が珍しくないからかもしれない。むしろ、神楽坂とかの方が喜んでもらえたかもしれない、と後悔する。まあ、しかし連れてきたから言えることで、連れてこなかったら、それはそれで後悔したと思う。そもそも、砂町銀座に彼女を連れてくる日本人はほとんどいないだろうから。

この後は千葉ニュータウンに寄ろうと思ったが、思いの外、道が混んでいたので、そのまま成田空港に送ることにした。寿司大での経験がなければ、非常にいい一日になれたのに、寿司大に入ったことで大いに悔やむことになった。残念。その前の鮨つかさでの意味不明の拒絶といい、悪いことが重なったのかもしれない。こんなことなら、門前仲町で昼ご飯を食べればよかった。まあ、幸いにシャロン達は、特に気にせずに美味しい、と食べてくれたことがせめてもの救いである。

道中、シャロンはいろいろと話をし続けて、それらが皆、鋭く、勉強になるものであったのだが、特に印象に残っているのは、「グローバリゼーションによる東京の変容」という意見であった。グローバリゼーションというよりかは、アメリカ化であるのだが、アメリカの影響によって、東京の特に商業空間は大きく変容している。売っているものがアメリカと同じになる。スターバックス、マクドナルド、ウィンドウズ、iPOD、ブルックス・ブラザース、ギャップ、バージン・レコード、ブリトニー・スピアーズ・・・。そして、都市景観も画一的なものになっている。これは、大規模な商業開発はほとんど一握りの建築家、都市デザイナーの仕事になっているからだ。ニューヨークでも東京でもジャン・ヌーベルが大規模都市開発のランドマーク的なビルの建築意匠を手がけている。まあ、ジャン・ヌーベルはフランス人だが、こういう一握りの大スターが重要な都市のデザイン要素を決定する。その結果、どこも同じような都市景観になるのである。そして、その都市景観を彩るサインは英語である。こういうのはそれほど違和感は覚えなかったが、シャロン達が気になったので改めて、確かにおかしいな、ということを知る。まあ、多少は門前仲町や砂町銀座では、そうではない日本を知ってくれたかもしれないが。

あと、インターネットが普及して情報が多く手に入るようになった時、観光で何より重要となるのが「オーセンティシティ(本物度)」であると指摘していた。築地のまぐろのせりや京都の先斗町などが人気が出るのは、インターネットの普及が原因であるだろうと分析をしていた。確かに、一時期日本への観光客が増えたのは、円安も要因だろうが、インターネットが普及して、本当に楽しい、「英語ではない」日本の情報が知られるようになったからであろう。まあ、まだ彼らも砂町銀座までは気づいていないかもしれないが、下北沢や原宿あたりには進出し始めている。私の友人の台湾人も、東京に遊びにくると、麺屋武蔵につれていけ、とか随分とツウな要求をする。グローバリゼーションやインターネット化への対応において重要なのは東京らしさ、日本らしさをしっかりと発信できるようにすることで、団塊の世代達がしてきたようなアメリカの盲目な追従では決してない。団塊の世代の人達より上の人たちは、特にアメリカに留学したようなアメリカかぶれの人たちは、日本をアメリカ化することで頑張ってきた。だから、今後はあまり頑張らないで欲しいのである。頑張ることで状況が悪化するということにいい加減、気づいてもらえるといいのだが。

nice!(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0