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鉄道のあるランドスケープ [都市デザイン]

6歳の次女と花見をするために埼玉県の長瀞に電車で行った。池袋から西武池袋線のレッドアローに乗って、飯能経由で西武秩父まで行き、そこから秩父鉄道で上長瀞まで行った。荒川沿いを歩き、長瀞駅まで行く。船下りをしたり、岩畳を散策したりしながら、桜の観賞を楽しんだ。桜は6分咲きであったが、なかなか見応えがあった。特に沿岸道路の桜並木による桜のトンネルは、桜が人を魅了する魅力が濃縮されているような非現実的な空間をつくりだしていた。さすが桜の名所100に選ばれているだけのことはある。その後、宝登山に登ったりして、長瀞から寄居経由で、東上線で池袋まで戻った。

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さて、ここで書きたいことは長瀞の桜が素晴らしい、ということではなくて、飯能から西武秩父までの西武池袋線の沿線、そしてお花畑から寄居までの秩父鉄道の沿線、そして寄居から小川町までの東武東上線の沿線の光景が、なかなかいい感じであるということである。これらの沿線の地域の光景の中心にあるのは単線の鉄道路線である。そして、この鉄道路線を中心にコミュニティが形成されている。これらの地域はまた、面白いことに高速道路はもちろん高規格の道路が整備されていない。その結果、これらの地域のランドスケープは今でも、自動車が今のように我が物顔で空間を支配する以前に形成されたものを維持しているのだ。鉄道という高速(といっても大したスピードではないが)でそのランドスケープを移動するものはあるが、それは線路という特殊な空間に制約されており、それ以外は長閑で人間の生活リズムによって空間も息づいている。その結果、これらの地域はなんか一昔前のような面影を残しており、地域の呼吸の仕方も昭和時代のようなノスタルジックなものを感じるのである。そして、それが非常にいい。

先月、兵庫県の丹波の青垣町というところを訪問した。ここは、昔はシルクロードで発展した町であり、昔の繁栄が偲ばれる街並みなどが非常に魅力的であるのだが、北近畿豊岡自動車道という自動車専用道路が2006年7月に出来て、昔からこのコミュニティに息づいていた呼吸のリズムは大きく乱され、そこはもう自動車の空間になってしまっていた。自動車専用道路は二次元だけでなく、高架化されているので、三次元的にもその地域のヒューマンなスケールを分断し、景観的にもまったくそれまでとは異なものにしてしまう。その結果、青垣町のような生きた街ミュージアムといったコンセプトで街づくりができたようなところの可能性を台無しにしてしまっているのである。なぜなら、青垣町のヒューマンな息づかいがつくりあげた空間アイデンティティは、高速道路というまったく違うリズムで動く空間施設とは相容れないからである。このような高速道路ではなく、鉄道が青垣町を通っていたなら全く違った展開になっていたと思わずにはいられない。鉄道路線は空間的にそれほど容量を取らないので、景観的に高速道路のように突出することはなく、周辺の光景に溶け込みやすいし、また駅といったコミュニティの密度の濃淡をつくりあげる効果もある。これは高速道路のインターチェンジとは違って、よりヒューマン・スケールの空間づくりをする効果を有している。青垣町は鉄道はなかったが、高速道路もないことで、また、非常に不便なところに位置していたこともあり、それなりのヒューマン・スケールを維持して今日まで来ることができたが、それももはや破壊された。非常に残念なものをみたな、と思って間もなく、これら北関東の3地域において、ヒューマン・スケールな空間が未だに残っていることを嬉しく思ったのである。

この3つの地域がモータリゼーションの進展の影響を受けていない訳ではないが、それでも鉄道が通っていたこと、高規格の道路整備がまだしっかりとされていないことで、いわゆる三浦展が指摘するところのファスト風土化がまだ、あまり進展していない。そして、景観的にもファスト風土的なショッピングセンターではなく、駅前を中心としたコンパクトな商業、サービス施設の集積、鉄道沿線沿いの並木道、田畑といったものが主な構成要素であり、非常にホッとするのである。そして、このホッとする景観づくりに大きく貢献しているのが鉄道なのだ。これは、何も日本だけのことではなく、ドイツやイギリスのローカル線が走っている地域、チェコのバスのような一車輌のローカル線が走っている地域などでも共通して得られるホッとした感である。そして、アメリカのようにローカル線がほとんどない国では得られないホッとした感である。鉄道、特にローカル線が走っている景観には、なんかこう安堵感を与える魅力がある。その価値は、おそらくノスタルジア以上のものがある筈だ。それはグローバリゼーションが進展し、大きくダメージを受けているローカルな地方が、それに対抗し、ローカルなアイデンティティを強化させるうえで、極めて強力な力を有しているかもしれない。ということに今日の日帰り旅行は気付かせてくれた。


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