SSブログ

ハリー・ポッターを完読して、多少考える [書評]

ハリー・ポッターを完読した。6巻が非常に今ひとつで大いに不満を抱いていたので、7巻を読むのは億劫だったのだが、惰性で読んだ。7巻はイギリス版だと600頁ちょっとある。500頁くらいまで、非常にいらいらさせる展開で、あと100頁でどうやって収拾をつけるのか、ということが気になりだした。最後の方ではもうホグワーツを舞台とした戦争が勃発し、重要人物がまるで閉店間際のデパートの総菜売場の叩き売りのような勢いで死んでいくので、この混乱をどうやって残り数頁で沈静化させるのか、どうやって落とし前をつけるのか、といったむしろ作者の力量を推し量るような冷静さで読んでいたのだが、素晴らしく納得できるオチが用意されていて、爽快な読後感を得ることができた。ローリングの大衆小説家としての類い希なる才能を改めて再認識することができた。

ハリー・ポッターの醍醐味はそのどんでん返しにある。読者があっと驚くようなストーリーの展開。その急激なローラーコースターのような話の急激な展開こそが、その魅力であると私は考えている。従って、個人的にはハリー・ポッターの最高傑作は3巻である。ロンのペットのネズミがハリーの父親をボルドモートに売った犯人であるなどと誰が想像し得たであろうか。推理小説はあまり読まないので参考にはあまりならないかもしれないが、個人的には史上最も想定外の犯人であった。そして2巻もそういう意味ではあっと驚かされた。日記の文字の順番が変わってVOLDEMORTの文字が浮かんだ時の驚き!1巻も3巻や2巻を読んだ後ではそれほど意外ではないかもしれないが、初めて読んだときは、声を出すほど驚かされた。十分、その内容を楽しむことができた。4巻になると、もう登場人物の誰もが犯人なのではないか、と思うようになってしまい、マッドアイ・ムーディーが偽者であるというハリー慣れしていなければ相当意外なオチも、それほど驚かなくなっていた。その割にはやたらページだけは多くなってしまっており、ちょっと散漫な印象を受けた。5巻も似たようなものだが、アンブリッジやベラトリックスといった敵役のキャラが立っており、4巻よりは楽しめる。特にアンブリッジは強烈で、官僚に特徴的な不快な考え方や態度をこれでもか、これでもか、と見せつけてくれる。私の大学の同期には官僚になったものが数名いるのだが、なかには本当にアンブリッジのように上から人を見下すようなタイプになってしまったものもいるので、ローリングの観察力と描写力に甚だ感心させられた。まあ5巻くらいになると、連ドラにはまったようなものなので、惰性で読んでしまう。そして6巻なのだが、7巻まで読んで分かったのだが、6巻はまさに7巻への繋ぎとなっているので、6巻だけ読んでも、通常のハリー的などんでん返しがないので非常につまらないものとなっている。逆に6巻を読まなくては、7巻はまったく面白くないだろう。ハリー・ポッターはしっかりと読む順番が指定されているが、この順番は極めて重要であることを知る。6巻で読者が抱いた違和感、ちょっとこれはないんじゃないの、といった不満は7巻でものの見事に解消される。というか、7巻の残り十数ページで大団円を迎える。ハリー・ポッターを読んでよかった、と思わせるような結末が用意されており、また、ローリングの人を観る目の冷静さの中に篭もる優しさを感じることができ、人生それほど悪くないじゃないか、といった気分にさせられる。

もう一つのハリー・ポッターの特徴は、権威、権力の強烈な不信である。前述したように、官僚的なものへの不信はアンブリッジによる理不尽で非人間的なコントロールによって表されているし、マスコミの好い加減さへの嫌悪はスキーターによるハリー等への根拠のないバッシングによって表される。当然、学校といった権威への不信は、てんこ盛りである。そういう中で、何が真実なのか、その真実への答えは自分で探さなくては得られない、といったことがメッセージとして発せられていると思われる。ハリーの場合は、誤情報に惑わされたりして真実が得られないと死んでしまうので、まあ真剣にならざるおえないのだが、真実を探求することの大切さをハリー・ポッターは教えてくれる。そして、その真実を探すためにハリーとハーマイオニー、ロンは冒険に出かけるのだが、その手法はフィールドスタディである。外の世界に出て、人に聞き、文献を探してその意味を考察する。私は大学でフィールドスタディを教えているので、そういった意味でもハリー・ポッターはいろいろと参考になる。

ハリー・ポッターは個人的には滅茶苦茶面白く、それを読むことで世界観も広がったなと思うのだが、私が奉職する大学の学生達は意外と読まない。せっかく時間もあるのにもったいないことだ。あと、映画で観るからいいと思う人も多いようだが、映画に比べて圧倒的に小説の方が面白い。映画の出来が悪いとは思わないが、やはり個々の読者がそれぞれのハリー観を小説を通じてつくりあげた方が、どんでん返しを強烈に受けることができると思われるからである。私も7巻では大いにやられた。しかし、それは爽快感を伴うやられた感である。ものの見事にローリングの掌で自分の思考はじたばたしていただけだったのか、ということを理解させられ、もう「敵ながら天晴れ」といった感じにさせられる。プロの小説家にかかると、私のようなアマチュア読者はもうまったく歯が立たないということを自覚させられる。そういうことを思わせてくれる小説は意外と少なく、そういった意味でもハリー・ポッターという小説は類い希な質の高さを備えていると考えられる。同時代に生きていて、これを読まないというのはあまりにももったいないと個人的には思うのだが、評価が過ぎるであろうか。あと、読むなら原書。しかもアメリカものではなく、イギリスものがお勧めである。アメリカものは、アメリカ人にも分かるように結構、言葉などが簡単になっているのだが、その結果、ハリー・ポッターの世界が発するイギリス的なおどろおどろしさが随分と漂白されてしまっている。是非ともイギリス版(Bloomsbury)を読むことを勧める。

Harry Potter and the Deathly Hallows (Harry Potter 7)(UK) Adult Edition

Harry Potter and the Deathly Hallows (Harry Potter 7)(UK) Adult Edition

  • 作者: J.K. Rowling
  • 出版社/メーカー: Bloomsbury Publishing PLC
  • 発売日: 2007/07/21
  • メディア: ハードカバー


nice!(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0