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ブラジリア [都市デザイン]

ブラジリアには二度、訪問したことがある。初めて訪れたのは1997年だった。ブラジリアのようなコンセプトだけを優先させた都市は一体、どのようなものか、知っておく必要があると考えたからである。さて、ブラジリアは私の期待に応えた、凄まじく酷い都市であった。何しろ、歩けない。歩こうとすると、命懸けである。普通の道路が高速道路のように幅が広く、しかも横断歩道も歩道橋も何もないので、道路の向こう側に行くのには渡るしかないのだが、自動車の走行速度も高速道路なみなので、ものすごい恐怖である。まあ、これは歩くということを全く念頭においてないから、歩いている方が悪いのだが。しかし、自動車を所有できない貧乏人や若者、年寄りはどうすればいいのだろうか。そういう人間達は住むな、というメッセージか。しかし、貧乏人や年寄りはともかく、子供を否定する都市ってどんな都市か。まあ、子供や若者は親を始めとした大人と常に一緒にいろということなのかもしれない。ストレス溜まりそうだ。別にそのような人ではなくても、自動車が故障した時はどうすればいいのだろうか。まあ、ブラジリアというのは、すべてが完璧にプログラム通り動くことを前提につくられているが、それは大きな間違いを犯している。というのは、人間というもの自体が完璧ではないので、その人間が生活する空間だけ完璧にしようとしても無理があるからだ。そして、問題が起きない筈の完璧なコンピュータや自動車もしょっちゅう壊れるのは周知の通りである。しかし、こういう理想論を昔は追求してきたのである。日本などは、そのような考えの代表格であったコルビジェに未だ強い影響を受けている、きわめて珍しい国であるので、そういうのが間違いであることをしっかりと理解することが必要である。二度目に訪れたのは仕事で、2001年だったと思う。中央政府に用事があったのだが、すべての政府のビルが同じでタクシーの運転手が迷子になったことが印象的であった。こういう機械的でシステム的な都市をつくることのつまらなさ、建築家の自己満足の欲望のくだらなさを思い知る。そして、その被害者はそこで生活しなくてはいけない人々である。ブラジリアではレストラン街は231番街、アパレル街は168番街などの番号で表される。メルローズ街、オックスフォード・ストリート、表参道、ロデオ・ドライブ、フリードリッヒ・ストラッセなど、世界にはファッション街としてのブランド的価値を有している通りが幾つかあるが、ブラジリアではそういうものがつくられることはないであろう。そう思わせるシステム的なネーミングである。いやあ、本当に酷い都市である。

しかし、このブラジリアでも人は生活をしている。そして、そこで生活する人達がこのブラジリアの下らないコンセプトを修正させている。まず、信号ができた。ブラジリアは計画的には渋滞する筈のない道路率の広さであったのだが、結果的に渋滞するようになった。当たり前である。そもそも、道路は渋滞を基準に設計すべきで、渋滞しないように設計をしようと考えることが愚の骨頂である。まあ、そういうことで信号をつくることになったのであるが、これは歩行者にとっては朗報であった。というのは、自動車が止まることになったので道路を初めて渡ることができるようになったからである。そして、地下鉄が計画された。これは自動車だけで都市を機能させることが無理であることが、ようやく理解できたのと、人口が増加して収拾がつかなくなったためである。

ということで、いろいろと当初のコンセプトを放棄して、現実的に機能する都市へと再生を画策しているブラジリアだが、もう一方の計画都市であるクリチバの知恵に頼るようになっている。まず、クリチバ市長を1997年から2004年まで務めたカシオ・タニグチ氏を招聘した。しかし、それだけでもやはり知恵が不足していたようで、遂にブラジリアの市役所から、クリチバを生まれ変わらせた男、ジャイメ・レルネルにコンサルタントとしての依頼が来たそうである。まさに、二つのブラジルの計画都市の勝負が決まった瞬間である。ブラジリアは、ひたすら機能を重視し、クリチバはアンチ・ブラジリア路線として、人間のアメニティとアクセスを重視した都市づくりを展開してきた。そのクリチバが生き延び、ブラジリアのコンセプトは崩壊した。非常に私にとっては印象的な出来事であった。というのは、私がクリチバに興味を抱いたそもそものきっかけは、ブラジリア的な都市計画への嫌悪感とアンチテーゼとしてのクリチバというところに惹かれたからである。

1998年にビオシティに初めてクリチバのルポルタージュを執筆した時、ブラジリアをついでに批判したので、ブラジリア大好きの建築家に事務所に呼ばれて説教をされたことがある。「何も分かっていないのに、生意気を言うんじゃない」というようなことを言われた。まあ、しかし何も分かっていないのは彼の方であることが、ブラジリアの都市コンサルタントとしてレルネル氏を招聘したことで明かになった訳である。


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