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クリチバで地下鉄がつくられなかった理由 [クリチバ]

ブラジルのクリチバはバス・ラピッド・トランジットの元祖として広く、世界中で知られている(日本では残念ながらあまり知られていない。おそらく、ブラジルだから下に見ているのだと思われる)。さて、クリチバのバス・システムは素晴らしいものがあったが(最近は、相当劣化している)、人口180万人、大都市圏だと360万人ぐらいの都市で地下鉄がないのはおかしいだろうと指摘するよそ者が日本企業やJICAを含めて少なくない。そして、実際、地下鉄をつくろうという動きは、今でもある。しかし、なぜつくられなかったのか。
 私が現地で受けた説明は、マスコミが地下鉄かバスか、で議論を展開した時、元市長であり、バス・ラピッド・トランジットをつくったジャイメ・レルネル氏に意見を求めたら、「バスの方が全然、いいだろう。クリチバはバスだ」という鶴の一声があって、それでマスコミや市民が地下鉄を却下したという話だ。これは比較的、最近で2010年ぐらいに聞いた話である。
 しかし、2020年に出版された「Traços de Curitiba(クリチバの特徴)」という本には、時代は違うが私が知らなかった、そして興味深いことが書かれていた。時代は1995年前後に遡るのだが、レルネル氏が三期目の市長を終え、それを引き継いだグレカ市長の時代、メトロをつくろうという気運が盛り上がった。インター・アメリカ開発銀行からも融資を受けることまで決定した。しかし、そこで作家のアルヴィン・トフラーがクリチバを訪れ、彼がグレカ市長とバスに乗車した際、グレカ氏がメトロをつくろうと思うのだけど、あなたの意見はと尋ねると「このバス・システムは世界でも見たことのないほど素晴らしい。地下鉄なんてつくって、これを台無しにしちゃダメだよ」と言われて、撤回したことが書かれていた(pp.210-211)。
 さすがトフラーほどの人は見識がある。それから30年、再びグレカ氏が市長になり、再びメトロ論が出てきている。アルヴィン・トフラーは残念ながら鬼籍に入っている。これから先、クリチバがどのように判断するかは興味深い。ただ、メトロを再び撤回するような決断ができる人が今、クリチバにいるとしたらグレカ氏ぐらいじゃないか、とも思う。

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