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都市の魅力と『パタン・ランゲージ』 [都市デザイン]

1980年代頃、都市の論客として巨大な存在感を示したクリストファー・アレキザンダー。彼は『パタン・ランゲージ』という概念を提示し、「都市はツリーではない」という名言を広げます。私は1993年から3年間、カリフォルニア大学のバークレイ校に留学しますが、バークレイ校に惹かれた理由の一つとして、クリストファー・アレキザンダーがいたことが挙げられます。彼のゼミにも応募して、無事、入り込むことができますが、3回だけ開講すると、個人の都合で勝手に中止されました。まあ、そのことを書くと、話が進まないので、それはまたの機会に置いておきたいと思いますが、このクリストファー・アレキサンダーはパタン・ランゲージにおいて、「都市の魔力(マジック)」という言葉を用いて、都市の魅力を論じています。彼によれば、「都市の魔力」を生むのに必要なものは、大学、美術館、図書館、動物園、交響楽団、日刊紙、AM/FM放送局、高級宝石店、毛皮店、流行に強いブティック、などを挙げています。
 これを読んだ方は、このリストに対してどう思いますか?ちょっとは納得するけど、あまり納得しないのではないでしょうか。凄く魅力に寄与するなというのを+++、そこそこ寄与するかなというのは++、まあ、無いよりはましかなは+と評価すると、+++であるのは「大学」ぐらいかな。++としては「美術館」「図書館」「動物園」「日刊紙」はそうは評価できると思いますが、他のほとんどは+。というか、個人的には「交響楽団」「高級宝石店」「毛皮店」はいらない。
 じゃあ、何が魅力として必要なのかを考えると、もうこれは圧倒的に「飲み屋」、それも「いい飲み屋」です。美味い寿司屋があると嬉しい。あと、いい酒屋、珈琲豆焙煎店、豆腐屋、コンフェクショナリー。スーパーと差別化できるクオリティの、肉屋、魚屋、八百屋。銀行と郵便局は近くにあった方がいい。金物屋や園芸店、文房具店、本屋もあるといいです。さらにライブハウスがあると嬉しい。交響楽団はいらないけど、いい箱があると有り難い。レンタル・スタジオがあるといい。また、コミュニティが集えて、ちょっとした会合などができるようなカフェ、もしくは市民菜園みたいなものがあるといい。同じ趣味を持つ人が集い、交流できるような場があるといい。それと快適な散歩ができる緑道や公園などもあると有り難い。
 それと余裕があれば、プロスポーツ・チームがあるといいかもしれない。個人的にはそういうところには滅多に行かないが、その都市での話題づくりにもなるし、気持ちが一つになりやすい。
 ということで、クリストファー・アレキザンダーと自分とで随分と都市の見方が違うことに気がつきました。クリストファー・アレキザンダーは一般的な都市づくりの「言語」として「パターン・ランゲージ」を提唱して、それはそれで興味深い指摘だったかとは思いますが、彼の使う言語は「アレキザンダー語」であって、普遍的ではないことがこの一事例でも理解できます。このアレキザンダー語が普遍的な言語でないのと同様に、建築も都市もその場所、時間、そこで息づく人々によって異なり、そこに普遍的な一般性はない。アプローチとしては興味深いものがあるが、民主的なアプローチが必ずしも万人に受け入れられる魅力的な都市をつくれる訳ではないことも、この一例は示唆していると思います。
 むしろ、ドイツのIBAのエムシャー・パークのようなアプローチの方が有効ではないのか、と思います。つまり、設問を提示して、それを多くの人が市民参加的なワークショップではなく、それぞれが思考を深化させることで解決を見出すというプロセスです。
最近、『パタン・ランゲージ』を高く評価する私よりずっと若い都市デザインの研究者と話をして、ちょっと違和感を覚えたので、少し、考えをまとめてみました。

パタン・ランゲージ―環境設計の手引

パタン・ランゲージ―環境設計の手引

  • 出版社/メーカー: 鹿島出版会
  • 発売日: 1984/12/05
  • メディア: 単行本



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