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フランシスコ・マデロ・アベニュー [都市デザイン]

 フランシスコ・マデロ・アベニューという通りがメキシコ・シティの中心部にあり、そこが最近、自動車を排除して歩行者専用道路にしたらしい。大きくみればコペンハーゲンのストロイエやら、クリチバの花通り、などの流れを汲んではいるが、どちらかというと最近のアメリカの「ニューアーバニズム」などの都市デザインの流れを踏まえた第二の「公共空間の人間化」の文脈に位置づけられると思われる。
 ニューヨークのブロードウェイの歩行者天国化、ハイライン、ロンドンのエクスポジション・ストリート、マドリッドのマンザネラス川沿いの歩行者空間化マドリッド・リオやソウルのチョンゲチョン川、ボストンのビッグ・ディッグといった文脈で捉えるべき事例であると思われる。実際、確認はしていないが、ハーバードのデザイン・スクールが関与したらしい。そういう意味で都市デザインのグローバル化の流れの一環としてつくられた事例であるとも捉えられる。
 さて、ということで、これは観なくてはならないと訪れることにした。「フランシスコ・マデロ・アベニュー」と検索して、地図をみると8号線のIztacalco駅の北側に東西に通じている道がある。こんな都心から離れたところに、歩行者専用同露を整備したのか。しかし、もしかしたらここはお洒落な地区なのかもしれない、ということでタクシーを拾ってIztacalco駅まで行く。周辺は、なんか庶民的なところで、高級住宅地という感じはしない。こんな地区にパイロット・プロジェクトをつくったのか、と興味深く思う。
 さて、Iztacalcoで下ろしてもらったのはいいが、そのような道らしいところは全然、見当たらない。困ってしまったのが、目の前が警察だったので、日本と同じように「道に迷ったら警官だろう」ということで聞いてみたのだが、まず英語が通じない。「そんな道はない」と言われる。これは不味いなあ、と途方に暮れたところ、目の前の地図に「Francisco I. Madero Avenue」と書かれているではないか。私はMaderaと言っていたので通じなかったようで、「マデロね」というような顔をされる。さて、ということで、このFrancisco I. Madero Avenueを目指したのだが、なんか、そのような道が見つからない。おかしいなあ、と何回か行き来したら、普通の別に歩行者専用道路化されていない住宅街の商店街のような通りであった。確かにバンプなどが頻繁に置かれていたり、歩道もちょっとランドスケーピングされていたりするが、これが都市デザイン事業を施した通りであるのだろうか。大いに疑問を抱いたまま、ちょっと写真を撮影したり、また定食屋に入ったりした。定食屋では、トルティージャを油で揚げたうえに、クリームソースをかけたような類のものであり、値段も150円程度のものであったが、実は他の1000円ぐらい取るレストランと比べてもずっと美味しかった。ちょっと水道水のメロンジュースを飲んだりしたこともあって、お腹を壊すかと心配したが、そういうこともなかった(私はお腹がそんなに強くない)。メキシコ庶民の暮らしの豊かさを知る。
 さて、これは期待外れだな、と落胆しつつ、都心部のソカロ地区に行く。そこで、文科省の建物の壁画などを見たりしてうろうろと歩いていたら、素場らしい歩行者専用道路がつくられていた。なんだ、これはと見たら「Francisco I. Madero」と書かれている。そうか、この名前の道は二つあったのか、とすべてが氷解した。
 この通りは700メートル。ソカロの広場とエジェ・セントラルとを挟んでいる。座る場所も多く設置されていて、これはバーリントンのチャーチストリート・マーケットプレイスを彷彿とさせる。チャーチストリート・マーケットプレイスはケビン・リンチがデザインに絡んだことで知られているが、まあMITとハーバードの違いはあるかもしれないが、同じボストンだし、そういう影響を受けているのだろう。ちょっと、現時点ではデザイナーが誰だか不明で書いているが、アメリカ的な都市デザインの匂いがプンプンする。2009年に自動車が排除されて、歩行者専用道路になったようである。
 都心部の目抜き通りであったようで、両側の店舗の多くは賑わっている。ちょっとヒップでバーナキュラー感はない。これは、メキシコ・シティのようにバーナキュラー感溢れる街にしてはもったいない気もする。
 東京もそうだが、メキシコ・シティも自動車を最優先に都市づくりが進展した。その結果、歩行者のアクセスは決して優れていない。特に、その都市のオリエンテーションに明るくない観光客にとってはなかなか厳しい都市である。
 そのような中、この通りは、メキシコ・シティにおいても歩行者がその都市への実権をふたたび取り戻したことを我々に知らしめる効果がある。その人通りの多さからしても、ここが成功したことは明らかであるし、私としてはメキシコ・シティにまで東京は遅れてしまっているのか、とちょっと悔しい気分になる。
 メキシコ・シティは12年前に訪れた時に比べて、ずっと人に優しくなっている。少なくとも空間構造や、アクセスにおいては格段に改善されていると思う。東京はどんどんと遅れを採っている。大阪や京都が、国際的な人間中心の都市デザインの流れに乗りつつある中、依然として人ではなく、企業のための都市づくりが展開している。大きくターニング・ポイントを迎えることが、東京の都市競争力を維持するためには重要である。オリンピックをすればどうにかなる訳ではないのは、リオデジャネイロをみても明らかであると思われる。必要なのはイベントではなくてしっかりとした戦略である。

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