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大村謙二郎先生の『ドイツにおける縮小対応型都市計画』を読んで、学習した点を備忘録として整理する [都市デザイン]


ドイツの都市計画といったら筑波大学名誉教授の大村謙二郎先生だと思う。その先生が2013年冬号の土地総合研究に『ドイツにおける縮小対応型都市計画』という論文を書かれているので、そこで私が学習した点、印象に残ったところを備忘録として以下、整理させてもらう。

現在、連邦政府が力を入れている都市計画助成制度の目標は次の3点である。
1)歴史的環境の保全=記念物保全を視野に入れた都市計画的機能面における中心市街地、地区中心の強化という目標である。
2)都市計画機能面での欠如・問題を抱えている地域での持続可能な都市計画的構造の創出という目標である。ここでいう欠陥・問題は、人口減少、都市縮小下での建設施設、都市インフラの過剰供給状況、中心部での空き地、空き家の発生などである。
3)社会的問題状況解決のための都市計画的目標設定である。
これら3つの目標設定のもと、現在、連邦政府が進めている都市計画補助プログラムとして次の8つが挙げられる。
1)社会都市 Sozial Stadt
2)活力ある都市・地区中心
3)東の都市改造 Stadtumbau Ost
4)西の都市改造
5)都市計画的記念物保全:歴史的都心地区の保全・再生
6)小規模市町村の連携による中心機能強化
7)都市再開発・新開発施策
8)社会インフラのエネルギー施設改善

これらのプログラムのうち、大規模なものの特徴を簡単に論文から要約したい。
1)社会都市プログラム:このプログラムは物的環境の改善、整備が主体であった従来の正統的都市計画の枠を踏み出したプログラムである。たんなる物的環境の改善にとどまらず、地区経済、福祉、教育、文化、社会環境などのソフト環境の改善も目指す総合的な都市計画を意図している。2011年現在で375の市町村、603地区で展開されてきている。

2)活力ある都市・地区中心・中心市街地活性化プログラム:中心地プログラムと略称される。2008年から2015年までに展開されている。とりわけ、中心市街地の空き地、空き家問題などの空洞化、地域の魅力の喪失などに対処するため、都市・地区中心を経済、文化、住み・働き・生活する拠点として再生することを企図しており、ドイツ版中心市街地活性化プログラムといえる。

3)東の都市改造:ドイツ再統一後、旧東ドイツ地域で顕在化したさまざまな構造的問題に緊急かつ総合的に対応しようとして連邦政府が旧東ドイツ地域の初秋と連携しながら開始したプログラム。統一直後、旧東ドイツは新たな成長の拠点となり、人口も産業も成長するというユーフォーイズム、楽観主義が横溢し、旧東ドイツ復興のために巨額のインフラ整備投資、住宅投資がなされた。しかし、90年代の半ば以降、次のような問題が顕在化することになった。
・ 予想以上に旧東ドイツの既存産業の競争力は弱く閉鎖、倒産が相次いだ。また、統一されたことで、労働者の賃金も旧西ドイツ並みになったこともあり、新規の製造業などの産業立地が進まなかった。また、雇用の機会が急減した、あるいは魅力ある雇用機会がない旧東ドイツを嫌って若い意欲のある階層が旧東ドイツから流出することで、多くの都市が急激な人口減少に見舞われた。
・ 旧東ドイツ市民が社会主義体制の時代に抑制されていた消費が顕在化し、自動車を購買し、集合住宅団地居住から郊外戸建て居住へ向かう層が増大した。統一直後の計画規制が不備な中で、西側商業資本は大都市郊外に続々と郊外大型商業施設を建設し、中心市街地に壊滅的な打撃を与えた。
・ 産業構造の転換に対応できない状態での失業率の高止まり、労働力人口の流出、将来の不安からの急速な出生率の減少、空き家、空き地の増大などの問題群の噴出。
 特に問題であったのは、旧東ドイツ時代に多くの都市の郊外においてシステマティックに建設された賃貸集合住宅団地の空き家発生問題であった。この問題の調査、分析を連邦政府から委託された専門家委員会の報告によれば、90年代末時点で、旧東ドイツ地域には全部で100万戸以上の空き家ストックが存在し、今後の人口減少、世帯動向を想定すると、その数はさらに増大し、賃貸集合住宅を経営する住宅企業体は深刻な経営危機に追い込まれる。早急な対策が必要であるとの勧告を答申した。
 東の都市改造プログラムは、このような人口・世帯構造の転換問題に対応するプログラムで、次の4つが主要な政策目標である。
1.中心市街地の強化
2.既存建築ストックの修復・保全
3.空き家状況の解消
4.縮小プロセスにある都市の価値向上
 このプログラムは2002年から、連邦・州の共同プログラムとして開始し、当初は2009年までの8年間の時限補助プログラムとして設定された。連邦政府はこの間、21億ユーロの予算を計上している。このプログラムの開始以来、410以上の市町村の900地区で都市改造プログラム事業が実施されている。2009年、連邦議会はこのプログラムの2010年から2016年までの継続を決定している。
 自治体によって、施策の取り組みや対象とする地区の様相は異なるが、大別して2つの類型地区が補助施策の対象となっている。
1)郊外部に労働者向けに建設されたコンクリート・パネルを使った、パネル構造の賃貸集合住宅団地である。60年代から80年代にかけて建設された団地であるが、建物、設備の老朽化や不備もあり、しかもヒューマンスケールを越えた巨大なモノストラクチャーの団地であること、5階、6階でもエレベーターのない住棟が存在すること、などから空き家が急増した。(筆者注:これに関しては、社会主義経済がうまくいかなくなるオイルショック以前と以後とでは、随分とクオリティが異なるので画一的に捉えることは難しい)。
 ここでは減築による需給バランスの調整、現代ニーズに対応した住宅の改善、新築、公共空間をはじめとする居住環境の改善等と地区コミュニティ再生のための社会マネージメントの推進が主要な施策となっている。
2)もう1つの対象地区はグリュンダーツァイト市街地といわれる19世紀末から20世紀初頭に形成された市街地である。旧東ドイツ時代にはほとんどこの地域に改善のための投資はなされてこなかった。道路基盤などは整っており、表道路に面した建物は立派であるが街区内部に建設されている住宅はトイレ、バス、暖房設備も欠けるあるいは設備不要であり、建物の老朽化が著しくなっていた。しかも所有関係が複雑で、それを整理して再整備するには巨額の投資が必要であった。
 東の都市改造プログラムでは部分的な建物撤去や中庭整備を行う。しかし、基本的なスタンスとしては歴史的な建造物ストックを活用した形で、居住者、地権者の参加を得ながら慎重な都市更新を進めることが主流となっている。
 東の都市改造グラムを継続、更新するうえでは「既存建築ストックの修復・保全」の項目が強化ポイントとして付け加えられた。その結果、自治体は従来の補助メニューに加え、1948年までの建築ストックに対する修復・保全の施策が展開できるようになった。財政力のない自治体は、自己負担なしでこの修復・保全施策を行えるようになった。

4)西の都市改造
 東の都市改造プログラムの西版。2002年から16のパイロット事業への支援を開始し、2004年から開始。旧西ドイツの約400の市町村が助成を受けることになる。その目標は、都市計画的発展コンセプトをベースにした持続可能な都市計画的構造の創出である。

さすがのドイツの都市計画への造詣の深さから、非常に分かりやすく整理されている。引用されることをお考えの方は、下記を改めてチェックして下さい。

ドイツにおける縮小対応型都市計画: 団地再生を中心に
著者:大村謙二郎
公開日:2013
論文誌:土地総合研究 巻21 号1 ページ 1-20 出版社:土地総合研究所
 

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