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コペンハーゲンのノード建築事務所(Nord Arhitects)にて取材をする [都市デザイン]

コペンハーゲンのノード建築事務所(Nord Arhitects)の代表のヨハネス・ペーダーセン(Johannes Pedersen)氏に取材する。コペンハーゲンの若手建築家の有望株である。同市のKids CityやBannana Park など子供視点での空間づくりをしている。
ヨハネス氏は、12年前にもう一人のパートナーで建築事務所を開設した、デンマークの若い建築家である。2000年頃に建築不況があった。そこでしょうがないので、自分達で起業した。そして、何が起きたかというと、マーケットが回復したのだ。コペンハーゲンは80年代と90年代は貧しかった。税金は少ないし、税収も少ない。ヨーロッパでトイレがないアパートの比率が最も高い都市であった。しかし、2000年の建築不況後、経済が回復し始め、オランダやイギリスで働いていた若いデンマークの建築家が2003年ぐらいからコペンハーゲンに戻ってくるようになったのである。
そのからコペンハーゲンには多くの投資がなされるようになった。コペンハーゲン市は、都心に家族を住まわせるような政策を実施することになった。この施策のおかげで、税収は増え、都心に住む若い住民が増えるようになった。それと併行して、デンマークは幼稚園などや低所得住宅などを供給しなくてはならなくなった。公共空間も充実させることが必要になった。住民が、公共空間の質を高めるための運動を開始したからだ。高層建築をつくることへの反対運動などが起きた。公共空間への要望の高さ、強さがデンマーク市の都市政策を変換させたのである。そういう意味では、デンマークはおそらく市民参加を通じて、まちづくりを実践してきた最先端を走ってきたと言えるであろう。
 コペンハーゲンは公共セクターが強い。収入の50%ぐらいが税金で取られてしまう。これが、公共空間を充実させることを可能にする。市場に元気がなくなると、公共体がそれを補う形で、事業を行う。コペンハーゲンは、パブリックライフに投資することの効果の高さをよく認識している。それによって、裕福な人や企業を誘致することが可能となっている。
 また、同市は、若い建築事務所に小さい仕事をするような機会を多く提供した。これによって、若い建築事務所が育っていった。そして、若い建築事務所も自信を持ち、デンマークで大きな仕事をできるようになり、海外での仕事も受注するようになった。ヨハネス氏はまさにそのようなデンマークの若い建築家の一人である。市民参加、プロセスをデザインするというアプローチを採用して、広く公共空間の設計を手がけてきて、現在ではキッズ・シティやバナンナ・パークなどのコンペで優勝するまでになっている。
 これらがコペンハーゲンの都市デザインが優れていることの背景にある。
 
 ノード建築事務所は住民参加型のボトム・アップの協働作業によるデザインを得意としており、住民をオフィスに呼んで、一緒に計画を検討する。なぜ、協働作業を好むかという私の質問に対して、それは、利用者が期待する質をしっかりと確保したいからだと言う。このようなプロセスを通じると、建築家が想像しなかったようなアイデアを得ることができると言う。良心的な建築家であり、ルシアン・クロールを彷彿させる。最近の作品であるがんセンターにおいても、職員や患者とは随分と話し合いをしたそうである。
 ノード建築事務所は「コンテント・ドリブン・オフィス(Content Driven Office)」だと言う。学校を設計する時に、まず「学校って何?」ということから考えるそうだ。内容をまず考え、そしてその解決法を考える。
子供達と協働作業をするときに重要なことは、相互がコミュニケーションできる「第三の言語」を使うことである。これはポイントである。
 
 コペンハーゲンでは、多くの人々が都心に住むようになっている。その結果、市は多くの課題を抱えている。福祉国家として、しっかりとサービスを提供しなくてはならないというプレッシャーを受けている。どのようにして、しっかりとした福祉サービスを提供し続けられるのか。重要な政治的課題である。
 1950年代〜60年代にかけて、デンマークは福祉国家をつくるのに非常に力を入れてきた。新しい公共空間も創造してきた。我々、若い世代の任務は福祉国家を改良していくことである。そのポイントとしては、多様なニーズに対応していくこと、子供が都心で増えてきているので、それらに対応することなどが挙げられる。
 キッズ・シティはデイケアセンターとしてはデンマーク最大であり、700人の子供がそこを利用することになる。0歳から14歳くらいの子供達である。その子供達のニーズに対応するには、組織ではだめだ。都市にしなくてはならない。そこで、キッズ・シティというコンセプトにしたのである。そのためには、子供を市民にしなくてはならない。

ヨハネス氏は多忙にも関わらず、随分と我々に丁寧に対応してくれた。そして、コペンハーゲンの公共空間がなぜ素晴らしいのか、その理由も少し理解できた。それは、公共空間をいいものにしようと積極的に動いている市役所と、その市役所がそのためにしっかりと若いデザイナーを育て、そしてその若いデザイナー達が、社会的役割を果たして、いい公共空間を設計しようと考えているからだ。羨ましいし、たいへんいい国なのではないかとも思ったりする。

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