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なぜ日本人は自転車に乗るか [サステイナブルな問題]

「なぜ日本人は自転車に乗るか」という質問をある新聞記者からされた。私の回答は、「それは日本の多くの都市の特性から、それが、一番、便利で費用も安く、経済的合理性が高いから」というものである。簡単だ。多くの自転車苛め政策というデメリットを勘案しても、自転車に乗ることが経済的に合理的であるからだ。
 それでは、日本の多くの都市の特性とは何であろうか。
・それは可住地面積における人口密度・建築密度が著しく高く、逆に道路面積比率が低いこと。
・そのため、商店街、学校、駅などが自転車移動圏に立地集積していること。
・この土地利用密度が高い都市においては、自転車のように小さな面積しか必要としない乗り物は、自動車に比べて、遙かに合理的であること。
(駐車場1台分で自転車は15台くらい駐輪できます)
・電車や地下鉄などの公共交通が極めて発達しており、それらのアクセス交通手段として自転車は極めて適していること、
などが挙げられる。

これらに加えて、
・ママチャリのように、生活移動に極めて適した自転車が、安価に提供されていること。
・電動自転車など、自転車の弱点を補う工夫がされているものも市場に提供されていること(私が住んでいたドイツではヤマハの電動自転車は人々の垂涎の商品でした)
・子供から自転車に乗る機会が多く提供されるなど、自転車文化が定着している。
ことなども理由として挙げられる。
 例えば、自動車1台あたりだいたい20〜25㎡ほどの面積を必要とする。東京都23区の世帯数は449万である。今、一世帯が一台車を持つとすると、その駐車場の面積は8980〜11225ヘクタール、90〜112平方キロとなる。23区の面積は621平方キロなので、駐車場だけでもう2割弱の面積を取られてしまう。しかも、自動車は移動しなくてはならないので、その際には車間距離などを配慮し、それが渋滞をしないで移動させようとしたら、東京のほとんどを道路にしなくてはならなくなる。実際、ロスアンジェルスのような都市では自動車のために土地の6割ぐらいを使用しているが、ロスアンジェルスは東京よりずっと少ない人口である。このように自動車のための土地利用をしたことで、ロスの人口密度は東京の144人(ヘクタール)に対して32人とほぼ4分の1になってしまっている。東京のような高密度な都市には自動車は極めて不適切な乗り物なのだ。
 一方で東京は世界に冠たる公共交通が充実した都市である。地下鉄の利用者は世界で、ダントツで一番だ。そして、この地下鉄や郊外鉄道という公共交通のノードである駅は、歩くのにはちょっと離れているけど、自動車は駐車場もないし、近すぎる。ということで、自転車が一番適しているというところに住んでいる人が多い。つまり、駅へアクセスするのには、自転車が最も適しているのだ。自転車は、日本の多くの都市にとって、大変利用勝手のよい乗り物なのである。自転車の利用を罰するような施策を実施しているので、人々がそれほど利用していないだけで、本来的には多くの人が利用したがっている日本の都市において理想的な交通手段なのである。
 しかし、日本政府は、自転車利用を止めさせようとするような、意地悪な政策ばかりを進めてきた。イギリスなどの自転車後進国が自転車普及に力を入れているのとはまさに対照的である。
 実際、自転車の利用を促進し、利用しやすい環境を創造すれば、多くの人が自転車を利用することになり、人々の豊かさは向上するであろう。また、それは移動エネルギーの削減や、自動車移動によって排出される排気ガスだけでなく、二酸化炭素の削減にも繋がり、個人の豊かさだけでなく、社会の豊かさにも繋がると思われる。
 多くの国が自転車利用を向上させることのメリットに気づいて、その促進政策を展開している中、日本はまったく違う方向を向いている。ガラパゴス現象の一事例である。アメリカのカルチュラル・ランドスケープの大家であるチェスター・リーブスが、その現象を極めて奇異に感じて書いたものが、私が翻訳した本である(『世界が賞賛する日本の町の秘密』)。
 日本の多くの都市においては、自転車利用を促進させる政策を進めることが、
そこに住む人々だけでなく、地域社会にとっても、そして環境にとっても望ましいと考えられる。一刻も早く、政策を転換させることが求められる所以である。

タグ:自転車
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