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ドイツの再生可能エネルギーでの自給率120%の地域を訪れる [サステイナブルな問題]

 ドイツに来ている。エネルギー自立地域の状況を知るためだ。そのためにリューネブルク地方にあるレーテムを中心としたアラー・ライネ盆地を学生たちと訪れた。ノルドライン・ヴェストファーレン・エコセンターの永井さんに引率してもらう。レーテムは、ハノーファーとブレーメンの中間に位置する。ちょっと、ブレーメン寄りであるが、私が地元のサッカーファンはどこを応援しているかと尋ねるとブレーメンとハノーファーはほぼ同数で、ハンブルクのファンも少々いるとのこと。地理的にはブレーメンが近くても、経済的にはハノーファーとの繋がりも強いようだ。これは、交通ネットワークの利便性がハノーファーの方が高いからであろう。
 レーテムの町役場で、町長のヒューゲさんに話を聞く。ところで、このヒューゲさん、自立エネルギーで町おこし、といったテーマでの取材依頼が多く、結構、断っているそうなのだが、町長は日本を訪れたこともある日本びいきなので、我々は日本から来たということで、わざわざ時間をつくってくれたそうだ。ドイツでも、アラー・ライネ盆地は先進的な事例であるということか。

 レーテムの町は人口が5000人にも及ばない農業が中心産業の田舎町である。面積は106平方キロメートルであるから、世田谷区の2倍くらいの大きさである。レーテムを中心とした8つの自治体から構成されるアラー・ライネ地方は765平方キロメートルの広さ。東京都23区よりも大きい。ここが、90年代後半頃から、広域的な地域活性化に取り組むことになった時、注目したのがエネルギーである。広域地域を再生可能エネルギーで100%以上カバーするという目的を掲げ、協働することにしたのである。そのために、使っているエネルギーの消費量を減らし、使用するエネルギーは再生可能エネルギーで供給するようにした。
 取り組みは96年に再生可能エネルギーを普及させるグループが設立されたことから始まる。その後、1998年から風力発電、2001年から太陽光発電を普及させるグループが設立され、2005年からは再生可能エネルギーの重要なポイント44カ所を自転車でめぐる観光ルートも整備した。2006年には街灯を省エネのものに換えることで40%ほど使用エネルギーを削減。2008年からは地域内にある114の公共施設を省エネ化することにした。2010年からは、それまでのコミュニティ・レベルではなく、地域全体でも、どうやったら100%再生可能エネルギーを具体化できるかのディスカッションを市民も入れて検討し始めた。
 このような取り組みの結果、アラー・ライネ盆地では、再生可能エネルギーで次のように発電できている。
*水力: 28.6(GwH)
*風力:189.5(〃)
*バイオガス:112.3(〃)
*太陽光:14.7(〃)
 これらの合計は345.1(GwH)である。一方で、同地域で利用しているエネルギーは273.5(GwH)。したがって再生可能エネルギーでの発電が実際の消費電力を26.2%も上回っていることになる。つまり、アラー・ライネ盆地は100%地域ではなく、126.2%とエネルギーを自立しているだけでなくて、実際の消費より多く発電することができているのである。

 ドイツには、2009年にドルトムント工科大学で客員教授を1年務めて以来、毎年、訪問している。福島の事故以前からもそうであったが、事故以降は加速度的に、再生可能エネルギーの普及に力が入れられ、そのポテンシャルがきわめて肯定的に人々に捉えられていることが、ドイツにくるとよく理解できる。日本ではドイツの脱原発の流れは、いろいろと問題があるといった紹介記事が掲載されていたりするが、そのような日本での報道と現場とでは大きな隔たりがある。ドイツの国民の82%が再生可能エネルギーを進めて、脱原発を進めるべきであると考えている、ということがどういうことなのかが、ドイツに来るとしっかりと理解できる。私が引率した学生も、デュッセルドルフ大学の学生などとエネルギー・シフトに関しての簡単なディスカッションをしたりしたが、日本の学生が、政府の脱原発に関して国民は納得していないのではないか、といった質問に対して「失礼すぎるでしょう」とドイツ学生がやり返す場面もあったりした。実際、私もドイツの原発従業員と話をした機会があるが、彼らはドイツ政府を責めるのではなく、原発事故を起こした日本を責めていた。彼らに失業の危機をもたらしたのは、ドイツ政府ではなく、日本なのだ。そういうことは、ドイツ人と話をすると分かるが、日本だと歪曲されて捉えている。そういう総合的な理解ができるので現地視察や現地の人の意見などを聞くことが重要であると思う。特に、現在のように日本のマスコミがほとんど信頼できない状況ではなおさらだ。

 ドイツでは、もはや4つの巨大なる電力会社が電気を提供するという時代は完全に過去のものになってしまった。現在は、市場の構造的にも技術的にも、エネルギーを地域、そして人々が勝手につくることができるようになっているのだ。これこそが、エネルギー効率といったレベルではなく、再生可能エネルギーが有する大きなポテンシャルなのである。それは、地域の自立、地域の自治権をも獲得させる大きな武器になるのだ。これを地方分権のドイツの地方は理解している。そして、おそらく日本の中央政府や大手電力会社が再生可能エネルギーを嫌う最大の理由はここにあるのではないかとも思う。具体的には、再生可能エネルギーが普及すると、地域には次のメリットを享受することができる。
1) 雇用促進
2) エネルギーのもととなる太陽や風力は、無料に近いので、再生可能エネルギーは今後の技術の発達によって、現行よりエネルギー代を安くすることにつながる。
3) 借地料や買取制度などがあるので、地域住民が収入を得ることができる。農業や林業が盛んな地域では大変、有利な状況を生み出す。
4) 地域内で再生可能エネルギーに取り組む個人、法人が増えることで、お金が増える。
5) 地域に落ちるお金が増える。

 さて、このレーテムは人口が4700人にしか過ぎないが、レーテムを中心としたアラー・ライネ盆地の広域人口は75000人。ドイツでは再生可能エネルギーでの自給率100%、すなわちエネルギー自立型の自治体は既に少なくないが、このアラー・ライネ盆地のように、人口が75000人規模での再生可能エネルギー自給率100%以上というのは珍しい。
 今後の課題としては、このように電気の部分ではもう100%は自給できているが、温熱そして交通面ではまだ100%には達していないので、これらの点を改善させていくことがポイントとなるそうだが、再生可能エネルギーに大いなるポテンシャルを確信させるような事例である。

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(レーテムのバイオガス発電をしている農家に話を聞く)

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(レーテムの農家のバイオガス発電装置)

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