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北栄町の風力発電所を視察する [サステイナブルな問題]

鳥取県の倉吉市に隣接して北栄町という町がある。人口は約1万5千人。この町に風力発電が9基ほど設置されている。北栄町は2005年に北条町と大栄町とが合併してできた町なのだが、この旧北条町に風力発電所はある。北条砂丘風力発電所といい、東西に約4キロメートルの長さの回廊状に発電機は立地している。なかなかの光景だ。

約43億円しか予算がない自治体なのに、約28億円もかかる事業に取り組むことになったのは町長の強い思いからである。1997年に鳥取県の企業庁が風況調査をしたのだが、そこで毎秒5メートル以上の風が見込めるとの予測があったことに基づいて、市長は風力発電で行こうと思ったそうである。約28億円の事業費に関しては、NEDOからの補助金を7億円、あと公営企業債20.5億円を借金して調達した。事業期間は当初は15年間であったが、今では20年間にまで延長されている。風車は1500kWのもので、ドイツリパワー社のものである。現在は2000kWのものが主力になっているので、この北栄町のものは小ぶりである。

北栄町が風力発電に取り組む背景としては、次の4点が挙げられている。
1) エネルギーの地産地消、官許負荷のないエネルギーの推進
2) 民間、他自治体の地域エネルギー導入のモデルケース
3) 環境問題の普及啓発のシンボル
4) 町独自財源の充実

鳥取県は結構、電力自給率が高く12%である。ちなみに北栄町の風力発電による年間発電量は23900MWhで、これは一般家庭およそ6600戸分。北栄町全体では5136戸いるので、余裕で家庭の電力を補うことができる。とはいえ、実際は事業所は家庭よりはるかに電力を消費するので、全体ではまだ100%自立とはいえないような状況であるそうだ。

また、発電した電力はすべて中国電力株式会社に売電している。これは、自立させるには蓄電施設を設けたりしなくてはならないことや、技術者の確保が難しいからだそうだ。北栄町にはメーカー等がスマートグリッドの売り込みなどをしてくるそうだが、このような理由から、なかなか発電したものをそのまま消費するというシステムを構築することはできないようである。ちょっともったいない。

この風力発電を設置した2005年は売電価格が10円ちょっとであったので、なかなか黒字にすることが難しかったそうだが、現在は20円ちょっとなので利益が出ている。もちろん、将来的には修繕費用がかかること、また、自前で維持管理をすることができず、外注をしなくてはならないので、黒字を現在出していても油断はできないそうだ。

風力発電を設置することによって周辺の住民等から苦情が来るのではないかと、北栄町の職員の方に質問すると、一番風力発電から近くに住んでいる人も300メートル離れていて、しかも風上なので、多少、騒音の苦情は出てくるが、実際のデシベルではあまり問題がないとのこと。

また、全国的には風力発電の技術者や自治体のネットワークはあまり構築されておらず、大学との連携もされていないそうである。そして、原発事故以降、問い合わせが増えたのではないかと尋ねると、全然、そんなことはなく、むしろ地球温暖化の問題が退行したので、人々の関心が減ったとのこと。そうだったのか。驚きである。というのも、風力発電は再生可能エネルギーの中でも最も安価であり、ドイツなどでのヒアリング結果からしても、もっとも有望であるからだ。日本は海洋国家であり、デンマークのような風力発電大国になり得るポテンシャルがあるように思えるのだが、なぜか関心をあまり持たれない。不思議だなあ、ということを北栄町に来て、改めて思う。

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