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チューリッヒにおいてパブリック・アートのポテンシャルを考える [都市デザイン]

 チューリッヒ芸術大学のシェンカー先生に話を聞く。芸術と公共性といった結構、高尚なテーマでの話である。芸術は政治に結構、よく使われてきた。特にヨーロッパではそうであろう。これは、ナチスなどを考えればすぐ納得できることであるが、社会主義諸国がオリンピックに力を入れるようなものと多少、類似していると思われる。
 そのような中、スイスはあまり芸術が政治に使われてこなかった。これは、まずスイスでは社会的な対立が他国と比べるとそれほど強くなかったからだ。政治的対話はスイスではそれほど一般的ではないそうだ。したがって、政治的な対立をテーマとする芸術家はスイスでは受けないそうだ。
 パブリック・アートは、そういう点からそれほどチューリッヒでは重要視されてこなかった。とはいえ、公園に銅像がつくられたのは、チューリッヒがヨーロッパで最初であったそうだ。また、多くのヨーロッパ諸国では第二次世界大戦後に多くの記念碑がつくられたが、スイスは第二次世界大戦に参戦しなかったこともあり、そのようなものを整備する必要はなかった。ミュンヘン、ケルン、パリ、ロンドンなどの都市では道路や街路に多くの現代芸術を含めたアート作品を見ることができるが、チューリッヒでは少ない。博物館はあったが、公共空間には芸術作品を設置することはなかった。
 そのような中、チューリッヒでは、10年くらい前から、公共空間にパブリック・アートを設置することを始めた。チューリッヒ市では、特別のパブリック・アートの委員会を設置した。この委員会は、パブリック・アートをプロデュースすることを目的とした。
 都市がパブリック・アートに力を入れるのは、それを都市アイデンティティの強化に使いたいからである。ロンドン、パリは博物館と美術館があるということで、世界中から多くの人が訪れる。ドイツではカッセルのドキュメンタ、ミュンスターの彫像博物館などの芸術イベントで、多くの人を集客する。ヴェニスのビアナンテーレもまさにそのような都市戦略の賜である。ヴェニスのような超一級の都市観光地でも、そのような集客の仕掛けが必要と考えているのである。都市の集客戦略としてパブリック・アートが使われたり、また、都市間競争で優位性を創造するためにパブリック・アートが用いられたりしているのである。
 パブリック・アートを設置することで、どのような課題があるのか。その一つとして、チューリッヒにてバルカン地方からの移民が多く、居住している地区にて、コソバ・アルバニアンのアーティストに頼んでつくった巨大なパチンコがある。これは、住民には極めて好意的に受け入れられたが、右翼の政治家は反感を示した。まず、外国人に税金を使うことが嫌いであった。さらに、芸術に予算を使うことも嫌いである。それでも、使うのであればスイス人の芸術家の作品に予算を使いたい。人々には問題はないが政治家に問題があるとのことだ。
 したがって、将来は、芸術と政治とを区分したいと考えている。政治家の影響が及ばないような予算決定ができれば、それが望ましい。もし、政治が芸術家にお金を出すと芸術家が考えると、芸術作品にも影響を与えてしまうと考えられるからである。現代芸術は批判的であり、批判的な思想を含んでいる。芸術の仕事は、社会が抱える問題を顕在化させることが役割であったりする。政治による芸術の過度の干渉は、芸術の存在価値を失う可能性もあるということだ。パブリック・アートの難しさを知る。
 
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(チューリッヒ・ヴェストの住宅地に出現した巨大なパチンコのパブリック・アート)
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