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ソリア・イ・マータのリニア・シティを訪れる [都市デザイン]

ソリア・イ・マータのリニア・シティ。それは都市計画を学んだものにとっては、エベネザー・ハワードの田園都市レッチワース、ルイ・コスタのブラジリアなどと同格の近代都市計画史の殿堂的プロジェクトである(ブラジリアは個人的には嫌いであるが、記念碑的なプロジェクトとしてはとても興味を惹くプロジェクトだ)。と少なくとも、私は捉えていた。ケビン・リンチの『グッド・シティ・フォーム』に大学院時代、嵌ったのだが、私的には最も理想的な都市構造は、ソリア・イ・マータのリニア・シティであった。したがって、その後、日本においてコンパクト・シティが流行しても、私はコンパクト・シティよりリニア・シティを推奨していた。そもそも、欧米がコンパクト・シティというのは分かるが、既にコンパクトな日本の都市がコンパクトを目指してどうする。というか、未だに県庁の郊外移転を取り沙汰したり、郊外の白地に巨大なショッピング・センターの立地を許したりしている一方でコンパクト・シティを唱えるのは焼け石に水、というか一方で火をつけているのに、もう一方で消化しているような非効率なことだと考えていた。

そのようにコンパクト・シティを批判的にみていた私であるが、リニア・シティは日本の都市でもいけると考えている。まず、日本は地形的にリニア、すなわち回廊上に都市が発展、形成されやすい。神戸などが典型だが、静岡、広島などもそうである。リニア・シティは自動車より公共交通によって人々を移動させることで、移動エネルギーを削減し、また、公共性をも培えることができる。リニア・シティこそエネルギー効率の高い都市構造である。コンパクト・シティはある程度、スケールが小さければ効率はよいが、ある程度の規模になるともう、効率性を高く維持することは難しくなる。森ビルとかがコンパクト・シティと言っていたが、森ビルは高さ面ではまったくコンパクトじゃあないからねえ。ということで、日本のある程度の規模以上の多くの都市は、コンパクト・シティよりリニア・シティを目指すべきだと考えている。

ということで、そのリニア・シティを提唱したソリア・イ・マータが、リニア・シティという概念を具体化したマドリードのその名も「シウダ・リニアル」(リニア・シティ)を訪れた。探すのが難しいかなと思ったら、「シウダ・リニアル」という名前の地下鉄の駅があった。ついでに他の路線では、「アートゥリオ・ソリア」という駅名もある。また、このリニア・シティの骨格となる道路の名称も「アートゥリオ・ソリア」であった。間違いたくても間違えられない。場所を知ったからであったが、地図でみても、その形状は一発で分かる。紛う事なきリニア・シティである。ということで、地下鉄に乗って、「シウダ・リニアル」まで行き、そこから歩いて北上した。目指すは、「アートゥリオ・ソリア」の駅である。距離にして3キロメートルほどある。

構造的には、クリチバの骨格軸(幹線軸)と極めて類似している。イ・マータのリニア・シティも当初は、路面電車が走っていた。現在では、それは二連節のバスへと置き換わっている。バスの方が効率がよいからだとマドリード工科大学のフェルナンデス教授が指摘していたが、路面電車というか、最近のライトレールの方が都市構造を規定するという点からは優れていると思われる。この点はちょっと残念だ。また、バスを導入するにしても、クリチバのようにバス専用レーンを設置することによって、リニア・シティの構造を強化させることができるであろう。とはいえ、リニア・シティは環状道路的な位置づけになっている。これが都心から放射状に伸びる形で設置されていたら、リニア・シティの本領が発揮できたであろう。というのは、リニア・シティは例えばコンパクト・シティに比べて、はるかに成長が容易であり、また成長を誘導させる効果があるからだ。しかし、改めてそう考えると、クリチバは極めて優れたリニア・シティである。しかも、成長途上の時点で、マスタープランにおいてその都市構造を4本のリニア(最終的には5本)にさせたことは、やはりとてつもなく賢かったと評価できるであろう。しかし、レルネルさんは、このソリア・イ・マータのリニア・シティから、マスタープランのアイデアのヒントを得たのであろうか。それとも、オリジナル的な考えであろうか。当時、このマスタープランのコンペ案をレルネルさんが出した時は、まだ20代後半である。やはり、レルネルさんはとてつもない天才都市計画家であるのかもしれない。少なくとも、マドリッドの本家リニア・シティより、リニア・シティとしての有効性、価値を実証している。

さて、それはともかく、マドリッドはソリア・イ・マータのリニア・シティ。断面図的にとらえると、歩道、車道、中央分離帯、緑地から構成される。交差点の場所を除けば、ほぼ車道、歩道、そして緑地の割合は同じであると思われる。その割合は5:2:6。道路はほぼ35メートルの幅がある。面白いことに車道の両側に同じ分量の緑地スペースが取られることはほとんどなく、どちらかに偏るように配置されている。また、場所によっては、中央分離帯の緑地スペースが広くなったりするが、両側に緑地が均等に配分されることはない。

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(緑地のスペースが多いことが特徴である)

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(歩行者も多い)

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(平行する道路からはアクセスできないようにされている。あくまでも中央の道路が交通の動脈として位置づけられている。この点がクリチバの「リニア・シティ」とは違う点だ)

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全般的にリニア・シティは高級住宅地であるようだった。しかし、一部、高速道路と交差する周辺は、環境が悪くなっていた。また、アルトゥリオ・ソリアの地下鉄駅の周辺は明らかに高級住宅地であることが分かる。環境も非常によいが、店舗群もちょっと高めというかお洒落である。デパートに入ったが、なんとテナントにバングス・エンド・オルフソンが入っていた。B&Oなんて、私が買えたのは退職金をもらった時だけである。なかなか、この周辺地区の住民の購買力は高いものがあるようだ。

また、北部はM30を通すときに壊したそうだが、実際、そこを訪れると、相当の急斜面であり、果たして、どの程度、M30以前に開発されていたかは疑問である。これは、現地の人の話を鵜呑みにしないで調べた方がいいかもしれない。しかし、確かに地図上だとM30の走るところで、きれいに3本の道路から構成されているリニア・シティの構造が壊されている。また、クリチバの幹線軸もこのソリア・イ・マータのリニア・シティと同様に3本の道路から構成されている空間構造をしているが、クリチバは両脇の2本の道路がしっかりと自動車走行道路として位置づけられているのに対して、マドリッドのリニア・シティはそのような交通のサーキュレーションがあまり考えられていない。一方通行であったり、そうでなかったりと、あくまで住宅地というミクロ地域での交通を処理することだけを考えて整備されている印象を受ける。まあ、そういう点でも、クリチバは必ずしもリニア・シティとは言ってはいないが、マドリッドの本家本元のリニア・シティより、はるかにリニア・シティとしてはしっかりしていることが確認できた。

とはいえ、このリニア・シティといい、ハワードのレッチワースといい、スタインとライトのラッドバーンといい、コルベットのビレッジ・ホームズといい、マックハーグのウッドランドといい、デュエイニーのシーサイドといい、カルソープのラグナ・ビレッジといい、住都公団の阿佐ヶ谷団地といい、しっかりとコミュニティ計画が考えられた場所は、極めて良好なる住宅地となっている。この簡単な方程式がなぜ、分からずに、日本では相変わらず、適当な郊外開発やら都心の再開発計画が策定されるのかは不思議。

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