SSブログ

スビアコという素晴らしい駅前開発(Transit Oriented Development)の事例に出会う [都市デザイン]

パースに来て、都市計画的には公共交通網の整備以外にはほとんど感心しなかった私であるが、偶然にも素晴らしいプロジェクトを見つけることができた。学会に飽きた私は、コンフェレンス会場の情報センターの受付に、パースに来てここだけは行くのは忘れては駄目なところはどこ、と尋ねてみた。受付係は相当、若い女の子であった。私の学生より若いぐらいで、高校生のアルバイトかもしれないが、結構、丁寧に回答してくれた。
「キングス・パークに行くべきでしょう」「もう行った」
「スワン川沿いのベル・タワーに行くべきでしょう」「もう行った」
「都心の歩行者モールには行きましたか」「もう行った」
ここらへんで、質問を変えてみた。どこか、都市的な活動が行われているようなところは都心しかないの?
 すると、結構、生き生きとした表情に変わり、「それならフリーマントルでしょう。また、フェリーに乗って、サウス・パースに行くのも悪くないし、そうそう、スビアコという古い住宅街はとても賑やかで素敵ですよ。地元の人はここに飲みに行ったりするのですよ」と言う。ここで、私はスビアコに興味をそそられた。ということで、お礼を言ってスビアコに向かうことにする。

スビアコはパース駅からフリーマントル線で3駅。パース市域ではなく、スビアコという人口1万8千人の自治体である。電車に乗るとあっという間に着く。さて、このスビアコの駅に降り立って驚いた。驚いたというかは感銘を受けたといった方がいいかもしれない。駅のつくりは簡易ではあるが、屋根はある。そして、何より周辺が歩行者専用空間、すなわちpedestrian precinctになっているところが素晴らしい。自動車はアクセスできない訳ではないが、幅は狭く、徐行するしかないようなつくりになっている。あくまでも歩行者優先のつくりが出来ている。最近、自由が丘が駅前ターミナルをつくりなおした。それほど悪くはないが、このスビアコ駅に比べると、自動車の方が歩行者の移動より優先されている。スビアコはそういう点で、駅の周辺を極めてヒューマン・オリエンテッドな人間空間につくりあげることに成功している。駅前には短時間の駐車が可能なスペースがあるが、長時間用の駐車スペースはちょっと離れたところにある。駅の北側にはウールワースというスーパーマーケットをアンカーとしたちょっとした商店街のような趣。もちろん、歩行者モールとなっており、上部には屋根まである。そして、それらを取り囲むようにして、4階建てくらいの集合住宅が立地している。まさに都市計画の教科書通りのような駅前開発である。ここまで優れた事例はアメリカには皆無であろう。よくサンフランシスコの南にある、ピーター・カルソープの手によるマウンテン・ビュー駅が事例として取り上げられるが、そことはまったく比較にならない。スケールにおいても、そしてレイアウトにおいても、ちょっと見ただけでは問題点が見受けられない。

IMG_9494.jpg
(相当、よく考えられて駅周りが計画されていることが分かる)

さて、それだけだと新しく郊外開発されたプロジェクトが有する、どうも漂白されたかのような単調さが気になるところなのだが、このスビアコは昔から郊外都市として発展してきたいわゆるパースの近郊地区であり、駅の南側がこの昔からのスビアコの市街地に接しているのである。そして、この市街地のメイン・ストリートであるロークビー通りが駅と直交している形になっているのである。このような理想的な配置になっているのは、おそらく現在の新しい駅が古い鉄道駅と同じ位置にあったからではないだろうか。それはともかく、このロークビー通りというのが素晴らしい通りなのである。サンフランシスコのハイト・ストリートのようなボヘミアン的な雰囲気も有している商店街なのだが、パースに来て私が最も感銘を受けた都市空間であった。なかなか、このような魅力的な商店街というか通りにはお目にかかれない。おそらく、ロスアンジェルスのどんな通りより、個人的には好みであろう。ヴァンクーバーのロブソン通りとも匹敵するような通りで、私はこの通りに来て初めてパースという都市が好きになった。サンフランシスコのサクラメント通りや、チェストナット通りなどよりも店舗密度が高く、私はより高く評価したい。そして、何より鉄道駅から歩いてすぐ、というのがいいではないか。ご機嫌になったので、ホテル・スビアコというビア・バーでビールを飲み、スビアコ・ハンバーガーを注文する。これで23オーストラリア・ドル。全日、パースの都心部でビールとステーキ・サンドを注文したら32オーストラリア・ドルを取られたことを考えると、決してハイエンドではないと思われる。パースには5日間滞在したが、最後の晩にて、ようやく幸福な気分になれた。スビアコを見たか、見ないかで私のパースの印象は大きく違ったであろう。あの若い情報センターの受付係に感謝する。

IMG_9526.jpg
(ホテル・スビアコはなかなか感じのよいビア・バーであった)
nice!(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0