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中沢孝夫『変わる商店街』 [書評]

 商店街の現在進行形の変化を知りたくて本書を手に取った。しかし、パッチワーク的な情報の羅列で、しかも情報の質が低い。分析の元ネタは中小企業白書や自治体の「中小企業経営白書」などであり、現場の取材は参考になる点もあるが、それを編集する筆者の視座がぐらついており、むしろ状況理解を誤らせる。また、見逃せない事実誤認もある。例えば、アメリカ・アイオワ州のチャタヌーガと書かれている。最初はテネシー州のチャタヌーガと同名の都市があるのかと思っていて読んでいたのだが、これは紛れもなくテネシー州のチャタヌーガのことであった。私が購入したのは8刷である。というと、これは筆者の間違いだけでなく出版社の怠慢でもあるだろう。なんと出版社は岩波書店である。天下の岩波も落ちたものである。
 さらに事例の評価にも怪しい点が少なくない。例えば、素晴らしい事例であると本書で紹介された静岡県島田市は、先日同じ県の裾野市に講演に行ったら、島田市は中心市街地の衰退が激しくてたいへんだという静岡県職員の話を聞いた。個別の商店や商店主は素晴らしいかもしれないが、それが商店街の活性化には繋がっていないのではないかとの違和感を覚える。もちろん本が出てから9年経つので、状況が大きく変わったのかもしれないが、結果論的には素晴らしい事例ではないのではと思ったりする。ということで、他の事例もそのまま鵜呑みに出来ないなという印象を抱かせる。
 また、地方都市の中心市街地の可能性を探るのに、足立区の東和銀座商店街や三鷹市を持ち出すなど、商店街の背景にある社会経済環境の違いを理解していないのではないかと思わざるをえない文章が多い。東和銀座商店街が抱える問題と、地方都市の中心市街地の抱える問題は、類似しているものがない訳ではないが、まったく状況が異なる。その人口密度、移動手段による自動車の利用比率、コミュニティのありかたなどがまったく異なっているのに、そういう点に関しては理解が浅いと思わざるをえない説明がされている。
 個人的には武蔵小山駅の地下化が商店街に益するという文章に、特に強い抵抗を覚えた。「踏切がなくなれば、交通は円滑になり、また急行が停車するようになれば商業集積地としてさらに発展が望まれるのである」(p.101)。バカも休み休み言え!踏切がなくなって交通が円滑になれば、目黒通りから中原街道へ抜ける通過交通が増えるだけである。踏切がなくなったから武蔵小山に買い物に行くかなんていう消費者がいる訳がない。むしろ、荏原に住んでいる人達が碑文谷にあるダイエーにクルマで行く頻度が増えて、武蔵小山の商店街にとってはマイナスになる。実際、私はたまにこの道を目黒通りが混んでいる時に抜け道で使うが、自動車に乗っていて武蔵小山の商店街に買い物に行ったことは一度もない。ちなみに自転車で通るときは買い物をしたりする。また、急行が止まるからといって、電車で武蔵小山の駅で降りて買い物をしたことも一度もない。はっきりいって、電車で来るような買い回り品や特別なものを売っている商店街ではないのだ。急行が止まったから目黒じゃなくて武蔵小山で買い物しようなどと思う人は皆無に近いのではないか。むしろ、急行が止まるので目黒や大岡山経由で自由が丘に出る地元民が増えるのではないだろうか。こういう人が、大学で教えて商業ならともかく街のことを語ったりしているから日本の商店街は駄目なんだなあということをつくづく知らされた。こんな本が出るくらいなら、私のような人間でも何か商店街系でまとめなければならないという責任感がふつふつと湧いてくるような駄本である。

変わる商店街 (岩波新書)

変わる商店街 (岩波新書)

  • 作者: 中沢 孝夫
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2001/03
  • メディア: 新書



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