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ジェネシスの『月影の騎士』 [ロック音楽]

ジェネシスの『月影の騎士』。英語のタイトルは『セリング・イングランド・バイ・ザ・ポンド』で、『イギリスを1ポンドで売り払う』というものだから、『月影の騎士』とは関係ない。おそらく、このタイトルは1曲目の「ダンシング・ウィズ・ムーンライト・ナイト」から採ったのであろう。アルバムの表紙の絵は「夢」というタイトルであり、このアルバムのためにオリジナルではなかった芝刈り機が描かれている。「アイ・ノウ・ファット・アイ・ライク」の歌詞に出てくるからで、表紙はむしろこの曲のイメージである。ということで、ちょっと分かりにくい。

さて、そんなことはともかくとして、このジェネシスの5枚目のスタジオ・アルバムは、それまでのおどろおどろしい怪奇趣味のコンセプトに包まれていた以前のアルバムとは一線を画し、プログレ・ロックらしい美しくも複雑なメロディが強烈な存在感を持つ曲群に彩られている。フロントマンであり、バンドの顔でもあったピーター・ガブリエルと同じ前線に他のメンバーも躍り出て、ピーターが在籍したジェネシスのアルバムでは最も5人のチームプレイがうまく機能し、その結果、奇跡的な素晴らしい化学反応が生じている。「ファース・オブ・フィフス」では、天空を翔ているかの如くのスティーブ・ハケットのギター・ソロが聴けるが、これはおそらく彼のジェネシス在籍時の最高の演奏ではないかと思われる。同様に、「シネマ・ショー」での後半のトニー・バンクスのキーボード・ソロも彼の最高の演奏の一つであり、これはその後、ジェネシスのライブのハイライトとなる。アルバムの構成としては、1曲目、3曲目、5曲目、7曲目といった奇数曲に10分程度の大曲を、偶数曲にリエゾン的な短い曲を配置している。大曲はどれもが傑作でありケチのつけようがないが、短い曲も「アイ・ノウ・ファット・アイ・ライク」が当時、ジェネシスの唯一のヒット・シングルとなるなど、クオリティはどれもが高く、捨て曲は一切ない。「シネマ・ショー」から「アイル・オブ・プレンティ」にそのまま流れ込み、1曲目の「月影の騎士」のメロディーに戻るという循環させる構成は、その後、「トリック・オブ・ア・テイル」、「セコンド・アウト」、「デューク」などでも用いられることになるが、このアルバムはその手法の先駆けとなった。ピーター在籍時のアルバムの中では、バンドの総合力が最も発揮された傑作であり、ジェネシスというバンドが凄まじい才能の集合体であるということが理解できる。

月影の騎士(紙ジャケット仕様)

月影の騎士(紙ジャケット仕様)

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
  • 発売日: 1999/03/31
  • メディア: CD



セリング・イングランド・バイ・ザ・パウンド

セリング・イングランド・バイ・ザ・パウンド

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
  • 発売日: 1995/11/29
  • メディア: CD



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