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『人口減少時代の日本社会』 [書評]

21世紀は日本にとって「人口減少の世紀」となる。本書は、この人口減少というマクロ環境の変化に伴い、我が国の社会システムがどのような影響を受け、また対策を必要とするのかを人口学の視点から分析する。7つの章から構成されており、1章は編者である阿藤誠による概観の整理。阿藤氏は我が国の人口学の権威ともいえる学者であり、包括的な整理が分かりやすく為されている。2章は「人口減少社会における青年層の位置づけ」、3章は「家族形成」、4章は「ジェンダー」、5章は「高齢者の社会参加」、6章は「多文化社会」、7章は「地域」がテーマとなっている。どの章も統計データ、アンケート調査に基づいて論旨が展開されており、説得力がある。上記の6つの視点から人口減少による社会変化を捉えることで、日本社会がどのような変化をこれから体験し、どのような課題を抱えることになるかが理解できる。その対応策に関しても提案が為されている。個人的には提案されている対応策に関しては、突っ込みたいところも無いわけではなかった。例えば、4章のジェンダーに関しては、ヨーロッパで出生率が上がっているフランスなどは移民を積極的に受け入れており、移民が相対的に高い出生率を維持させているという実態がある、とドイツの大学の同僚が指摘している。私自体、統計を見たわけではないが、日本の論文は移民による高出生率をしっかりと把握していない印象を受けている(これは、実は日本の論文だけではなく、ヨーロッパの学者も数字だけを追っているという批判がある)。また、7章の地域の対応策も、著者は人口減少期においても総合開発計画の立案があってしかるべきであろうと指摘しているが、私はこの考えは、それなりの妥当性はあるが危険であると考える。なぜなら、地方において人口が減少する一つの要因として、この中央を頂点とするヒエラルキー体制があったことが指摘できると考えるからである。このように問題がないとは言えないが、人口減少を理解するには適切な本であると思われるし、内容もしっかりとしている。

人口減少時代の日本社会 (人口学ライブラリー 6)

人口減少時代の日本社会 (人口学ライブラリー 6)

  • 作者: 阿藤 誠/津谷 典子
  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2007/08/24
  • メディア: 単行本



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