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ビルバオを訪れ、都市デザインの力をまざまざと知る [都市デザイン]

スペインのビルバオをドルトムント工科大学の同僚と訪れる。都市再生の成功事例を是非とも、チェックしておきたかったからである。ビルバオはバスク州ビスカヤ県の県都で人口は約35万人。鉄鋼業や造船で発展した港湾都市だが、これらの産業が衰退したことで大いに落ち込んだ工業都市であった。しかし、このビルバオは工業から観光、サービス産業へと産業構造の転換をするために都市の大改造を行う。地下鉄や路面電車なども開業させ、それまでの工場跡地や不要となった操車場を再開発する。しかも、都市デザインに力を入れ、ネルビオン川沿いに公共空間、しかも人間を主体としたアクセシビリティに富んだ空間を再生する。これが見事に成功した、ということなのでそれは是非とも確認しなくては、とドイツから飛んだのであった。

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(フランク・ゲーリー設計のグッゲンハイム美術館。川との関係性が見事)

ビルバオの都市再生の起爆剤となったのはフランク・ゲーリー設計のグッゲンハイム美術館である。1997年にネルビオン川沿いにあった工場跡地に出現し、その後の都市開発を推進させる勢いをビルバオにもたらした。フランク・ゲーリーらしい曲線が多用されたとらえ所のない造形でありながら、強烈に人の関心を惹く力を有した建築である。さて、フランク・ゲーリーの他の建築とこのビルバオのグッゲンハイム美術館との違いは、その規模であると思う。何しろ、でかいのである。そのでかさによる圧倒的な存在感を、そのとらえどころのない造形がさらに増幅させ、建築が空間に作用する力を強烈に発揮させている。これは凄い!フランク・ゲーリーはそれまでそれほどは好印象をもっていなかったが、これに関しては脱帽するしかない。これだけ強烈な存在感を発揮させる建築を設計できるのは、ゲーリー以外ではザハ・ハディッドくらいであろうか。

そして、これだけ強烈な存在感を発揮させつつ、周囲から浮き立つことなく、泰然とした自然な感じで鎮座させているところがまたいい。北側で接する巨大土木構造物である橋は、建築物をこの橋の下を通らせて、しかも橋という視覚的障害物を緩和させるために、橋の博物館の反対側に橋よりさらに高く、博物館の延長として容易に解釈できる塔をつくっている。この塔は機能的にはまったく無意味に近いが、北側から博物館をみる際に、橋を視覚的に透過させるような効果をもたらしているのである。これは、素晴らしいアイデアだと思うと同時に、動線、視線の連続性をネルビオン川に沿って確保するための執念のようなものを感じる。そして、博物館の南側にあった鉄道操車場跡地は、なんと子供のための公園を整備した。商業施設として開発すれば、どれだけ高く土地を売却することができただろうに、それを単なる公共施設、しかも子供を対象とした空間へと転用させたことに、ビルバオという都市の見識の高さを知る。これによって、博物館という集客施設を活かした公共性の豊かさをその周辺の空間で市民が享受できることになる。また、東側のネルビオン川沿いでは、川沿いの歩道に緩やかに起伏を設けることで、博物館の建物の前面に張られたプールと川とがあたかも連続で繋がっているような印象を与えることに成功している。また、この歩道部分は川に出るように湾曲されているのだが、それによって、この歩道が博物館の一部のように見える。というか、歩道が建築と一体化したように見える。ここらへんの周囲との共生のさせ方は見事というしかない。西側のオフィス街からのある道路からは、この博物館があたかもアイスポットのように位置づけられている。アイスポットといっても建築が巨大なこともあって、その存在感は圧倒的だ。この博物館が新生ビルバオの中核であることを嫌でも認識させられるような絶妙な位置取り、そして周囲との共生が図られているのだ。

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(塔を橋の反対側に設けることで、橋による空間的遮断の障害を緩和させている)

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(ウォーターフロントは多くの人で溢れている)

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(博物館に隣接した鉄道車両操車場は、商業施設などではなく児童公園が整備された。見事!)

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(オフィス街の隙間からもその威容を現すグッゲンハイム美術館)

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(川との関係性の演出は見事としかいいようがない)

もちろん、この博物館だけではない。見事な意匠の橋がいくつもネルビオン川の両岸を結んでいる。これらは詳しく調べたわけではないので、推測にしか過ぎないが、ほとんどが最近の都市デザインの流れの中でつくられたのではないだろうか。橋にしろ、公共交通にしろ、歩道にしろ、アクセスを改善させ、都市の地区内のネットワーク化を図っている。歩道には人が溢れているし、グッゲンハイム美術館は年間で100万人が訪れるそうである。個人的には、大したコレクションでもないなと思うのだが、これは場の力の持つ不思議さとでもいうものだろうか。グッゲンハイムというコンテンツとしては大したものでなくても、その場の力を顕在化させ増幅させるような建築を出現させることで、何か奇跡のような魔法が生じることを、ビルバオのゲーリーの作品は知らしめる。そういえば、マンハッタンのグッゲンハイムもフランク・ロイド・ライトの素晴らしい建築が似たような効果を発現させている。

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(橋によって川の両岸が結ばれている)

優れた都市デザインで都市を再生させることができるのは、方法論としてあることは当然、知っているのだが、ここまで見事に実現できた都市はブラジルのクリチバをおいて他に知らない。凄いものをみさせてもらった。

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