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『まちづくり道場へようこそ』 [書評]

 まちづくり、という内容は分かりやすいようでいて分かりにくい。それは、ある人にとっては道路をつくり、川を真っ直ぐにすること、臭いものに蓋をするかの如く小川を暗渠化することを指す。はたまた、自動車も通れないような小路に人々が溢れかえっている駅前商店街を、自動車が通れるように道路を押し広げ、高層マンションが建てられるように区画を長方形に整理する事業をまちづくりという人もいる。
 然らば、まちづくり道場の主である片寄先生にとってのまちづくりとは、人づくりである。まちとは人によってつくられ、人によって営まれるものである。まちをつくるには、まず、そこで生活、活動する人をつくることなのだ、と片寄先生は言う。そう言われるとそうか、と思うのだが、人を押しのけ、人が憩っていた空間を壊して、自動車のための道路をつくることをまちづくりだと考えていた人々にとっては、これはちょっとした驚きであろう。
 本書は、片寄先生のまちづくり術を理解できるように編集された指南書である。そこには、まちづくりを成功させるための鍵になる戦術が満載されている。まちは人に愛されなくてはならない。人が関与しないまちが愛されるはずがない。それには人づくりである。そして、人との関係性、ネットワークをつくりあげていき、その先に愛されるまちが見えてくる。まちが道路や小洒落たファサードによってつくられるのではなく、人と人とが共生して生活するという関係性によってつくられていることを理解している片寄先生だからこその、温もりあるまちづくりエッセンスにこの本は溢れている。そして、それは商店街が衰退し、地域風土が喪失し、地域コミュニティが弱体化し、開発至上主義が迷走している現在の日本にとって、まさに必要とされる知恵である。経済効率、経営効率といった指標に振り回され、真の豊かさとは何かを見失ってしまっている今だからこそ、人を常に中心においた片寄先生のまちづくりの理念を我々は真摯に傾聴すべきである。ようこそ、片寄まちづくり道場へ。

(これは、本書販売時における私が記した書評を再掲したものです)


まちづくり道場へようこそ

まちづくり道場へようこそ

  • 作者: 片寄 俊秀
  • 出版社/メーカー: 学芸出版社
  • 発売日: 2005/12
  • メディア: 単行本



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