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ゴスラーを訪れ、素晴らしい空間体験をする [都市デザイン]

ゴスラーを訪れる。ハルツ山脈の西側の麓に位置する都市である。同じ、ハルツ山脈の麓にあるケドリンブルクと同様に、このゴスラーの旧市街地も世界遺産に指定されている。ゴスラーは以前から行かなくてはと思っていた都市であった。というのも、池内紀氏がその著書『ドイツ町から町へ』で、ドイツの都市でどこが一番かと言われたらここと記していたのが、このゴスラーであったからだ。

果たして、ゴスラーは素晴らしく魅力溢れる都市であった。ゴスラーを訪れて池内氏の観察眼の的確さを確認したと同時に、私も彼と同様に、このゴスラーという都市はドイツの同程度の都市規模(すなわち町に毛が生えたような人口5万人前後の都市)の中では秀でて素晴らしい都市であると思ったのである。木組みの家々が美しいのもあるが、同じようなハルツ山脈の麓の木組みの家々が美しいヴェルニゲローデやケドリンブルクと違って、ここゴスラーは鉱山で長い間栄えたために遙かに豊かであった。しかも戦後は旧西ドイツに位置していたために、しっかりと維持管理がなされていて、より豊潤で洗練された雰囲気を醸し出している。さらに、木組みだけでなく、スレート、石などの建材によってつくられた家もあり、街並みは変化に富んでいる。しかし、異なる建材を使っているにも関わらず、全体としては調和に富んでいる。それはあたかも、時の流れによって一つのコンセプトに緩やかに統合されていったかのような調和である。

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美しい街並みの中でも、マルクト広場は特筆に値する。こんなに素晴らしく、洗練された広場は寡聞にして知らない。広場はほぼ正方形の形をしていて、市役所、ゴシック様式の建物のホテル、そしてスレート壁の建物などから構成される。その中央には、噴水が設置されていて、うえには金の鷲が鎮座している。この鷲が権威的でなく、どこか愛嬌があって、この広場の空気を和やかなものにしている。そして、この噴水から放射状に広がるように煉瓦色の石とスレート色の石が敷かれているのだが、それがどんな絨毯の模様も適わないような幾何学的な美しさを創り出しているのである。しかし、それは定規をつかって直線を引いたといったものではなく、丁寧に手書きで直線を引いたような味わいをだしているのである。シンプルではあるが、センスがよく、上品ささえ感じられる。この広場の主人は間違いなく、市役所である。市役所の1階と地下はドイツの御多分に漏れず、ビアホールになっている。しかし、市役所にビアホールとはよく考えたものである。ビアホールがあることで、市役所が権威的なものではなくて親しみを持ってくるから不思議だ。それに、市役所での固い会議や打ち合わせの後に、ビールで発散させるという点でも優れている。この広場と市役所の関係をさらによいものとしているのは、市役所の後ろに背景のように教会が見えることである。市役所の建物自体は決して大きくないのだが、後ろに教会があることで、存在感が強調されている印象を受ける。

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このゴスラーのマルクト広場は、私がみてきた広場の中では突出して素晴らしいのではないかと思う。他に素晴らしいなと思ったのは、ブリュッセルのグラン・プラス、ローマのスペイン広場とナヴォーナ広場、パリのヴォージュ広場、ポーランドのパイオニア・スクエア、プラハの市民広場、ウィーンのシュテファン広場、ワイマールのマルクト広場、ヴェロニゲローデの市役所広場か。ゴスラーのマルクト広場は、華やかさではローマやパリ、ブリュッセルの広場には劣るが、しかし、逆にこれらの広場では感じられない落ち着きと居心地のよさを感じる。

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建築学会が編集して出版した本に『空間体験』というものがある。私は結構、この本が好きなのだが、このゴスラーという都市は、私にとってはとても心地よい空間体験を提供してくれる。そこに長時間いても全然、飽きることがないのだ。いつまでもそこで時間を過ごしていたいような気にさせる。広場は公共の財産であるな、ということを教えてくれる素晴らしい空間であった。この広場があるからこの都市が素晴らしいのか、都市が素晴らしいからこそ広場も素晴らしいのか。いろいろと考えさせてくれる空間である。また、是非とも訪れたいと思わせた気持ちのよい時間を過ごせた。

ドイツ 町から町へ (中公新書)

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  • 発売日: 2002/11
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空間体験―世界の建築・都市デザイン

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