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ローマは自動車というコレステロールが多くなりすぎて、もう倒れる寸前だ [都市デザイン]

ローマはローマ時代、ルネッサンスからバロック時代、19世紀後半から20世紀と大きく3回ほど都市がつくられ直された(19世紀後半から20世紀にかけては、むしろルネッサンス・バロック時代の第二のローマが破壊されたと言うべきか)。特にルネッサンス・バロック期において、この都市の骨格が形成され、今のローマの礎がつくられたと言える。教皇シクストゥス5世によるいわゆる6つの丘の開発である。彼は1585年から1590年というたった5年間の在任期間において、ローマ市街全体を掌握しつつ、その改造に着手して、アウレリウス帝の市壁に含まれる丘陵地を急速に開発していく(ブラウンフェルス著、『西洋の都市』参照)。そして、水道の修復を行い、新たな水の供給で活性化された居住街区に新しい道路網を整備する。サッタ・マリア・マッジョーレ聖堂を中心に、サンタ・クローチェ・イン・ジェルサレンメ聖堂、ポポロ広場を結ぶ都市軸を整備し、またポポロ広場からナヴォーナ広場、カピトリーノ丘へ至る軸も整備する。ポポロ広場からこれら放射に延びる道路をみると、職業柄感動を禁じ得ない。

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(ポポロ広場から放たれる3つの都市軸)

この都市設計は自動車が出現する以前に考えられた。当然、都市の速度も歩くことが中心であり、その規模もヒューマン・スケールのものとなった。しかし、20世紀になりこの都市に自動車がどっと侵入してくる。ドイツの旧市街地の歩行者専用ゾーンに慣れてしまった筆者にとっては、ローマを歩くのは命がけである。ローマの市内にも歩行者専用ゾーンみたいな場所はあるのだが、なぜか自動車がたまに通る。ローマに来る前にイタリア人の友人が「ローマは歩行者専用ゾーンに自動車が走るから気をつけないとね」と言ったことが冗談ではなくて事実だということを知り愕然とする。また、なぜか大通りの横断歩道には信号がついていないものがある。ドイツやアメリカはもちろん、日本でもこのような横断歩道を渡ると車は止まるか、少なくとも減速するが、ここではそのようなことは期待できない。インドネシアやベトナムの都市で感じるような殺意を含んだような無視はないが、ブラジルやアルゼンチンの都市で感じるぼやぼやしたら轢くぞ程度の脅しのようなものは感じられる。都市はほぼ自動車に占拠されているが、幾つかの広場は自動車が侵入できない。とはいえ、このような広場でもなぜか、端っこの方を自動車が走っているが、それは控えめである。ローマではこの広場だけ、人間は都市を取り戻すことができるのかもしれない。ローマの広場はそもそも素晴らしいが、周辺の環境の悪さが、その素晴らしさを際だたせていると思われる。とはいえ、このヒューマン・スケール溢れる素晴らしい広場という空間はネットワーク化されていない。教皇シクストゥス5世は広場を空間的にネットワークさせることを意図し、実際、視覚的にはネットワークされているのだが、動線は遮断されているに等しい状況にある。自動車が進出し、その動線を機能させなくしてしまっているからだ。滅茶苦茶もったいないと思うのと同時に、ローマ市の都市計画課は何をしているのだろうと不思議に思う。今回は無理だが、いつか、取材に訪れたいものだ。

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(路上駐車が多い。これでは先に駐車した車は出られないのでは?)

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(あちこちでこのような渋滞が生じている)

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(ドイツだったら歩行者専用になっているような石畳の細道も自動車は走っている)

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(ローマは階段が多いのがそれでも救いである。階段は自動車が走れないからね)

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(狭い道路を自動車が通るため歩道は狭い。あるだけましか)

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(たまにある歩行者道路は本当にホッとする。しかし、人が多い)

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(ナヴォーナ広場が素晴らしいのは、ベルニーニによる噴水があるからというよりかは自動車が排除されている数少ない空間であるからだ)

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(スペイン広場のスペイン階段が素晴らしいのは、階段は自動車が通れないから。この広場も都市軸上にある)

簡単にまとめてしまえば、ローマというとびきりのプロポーションをもち、ミケランジェロやベルニーニといったブランドの高価で貴重な洋服、宝石で着飾った美女は、都市計画という栄養管理をその後しっかりとせずに、自動車というコレステロールをどんどんと摂取してしまったために、今や体脂肪が異常に高くなり、高血圧、糖尿病で正常な生活ができないほどの体質になってしまっている。治療法は、コレステロールを摂取しないで、交通需要管理という栄養管理をすることや、多少乱暴でお金はかかるが、都心の通過交通を、地下トンネル道路を整備して処理するという心臓バイパス手術をすることなどが考えられる。まあ、ローマの場合、トンネルを掘ると遺跡がたくさん出てきて大変なんだろうが、このまま自動車を放置しておくと状況はさらに悪化していくことは確実であろう。まあ、コレステロールの摂取量を大幅に制限して、その代わりに公共交通というセルロースをたくさん取ることで交通の流れをよくすることであろう。272万人という人口を抱えているにも関わらず、二本しか地下鉄がないというのはいくら何でも少なすぎるだろう。トンネルを掘りたくないというのであれば、路面電車を走らせればいいだけの話だ。あと信号をもっと増やすべきであろう。これだけの観光地であるのに、歩行者の移動動線があまり考えられていないのは驚くべきことである。このようにアクセスという観点からは、とてもヨーロッパの国とは思えないレベルにあるローマという都市に、世界中から都市デザインや建築の学生が学びに来るというのは何とも皮肉である。今までこのローマという美女は教皇シクストゥス5世といった稀代の整形外科によって再生してきたが、また天才的な整形外科によって再生されることを必要としていると思われる。貴重な洋服、宝石は確かに魅力的だが、肝心の都市という肉体がぼろぼろになってしまうと、せっかくの洋服や宝石もあまり輝いて見えなくなるのではないだろうか。

西洋の都市―その歴史と類型

西洋の都市―その歴史と類型

  • 作者: ヴォルフガング ブラウンフェルス
  • 出版社/メーカー: 丸善
  • 発売日: 1986/07
  • メディア: 単行本



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