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サンアントニオを再訪し、パセオ・デル・リオの賑わいが維持されていることに感心する [都市デザイン]

サンアントニオを再訪する。テキサス州にある人口100万ほどの都市である。前回、訪問したのは1990年であった。衰退するダウンタウンを再生させた事例の調査のために訪問し、関係者等に取材を行った。その成果は、当時の『週刊エコノミスト』に発表したりしたのだが、そのアメリカの都市とは思えない運河を中心としたヒューマン・スケールの空間を創出したことに、当時は深い感銘を覚えたものであった。

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アメリカの都市は「歩く」経験をすることがなかなか出来ない。ニューヨークのマンハッタンを例外とすると、ほとんどの都市では歩くことが難しい。多くのアメリカ人にとって、歩くということは駐車場からショッピング・センター、そしてショッピング・センターの内部をうろつくことを意味する。そのような中、サンアントニオはどぶ川のように人々が無視をして、背中を向けていた運河沿いに歩道のネットワークを設けて、裏庭から表玄関へとその位置づけを大転換させて、人々が歩く魅力的な空間を創出することにせいこうしたのである。この歩道ネットワークはパセオ・デル・リオ、英語ではリバーウォークと呼ばれ、今では、多くのオープン・カフェやレストランがこの川沿いに設置されており、歩く都市空間として賑わいを演出している。加えて、運河にゴンドラの水上タクシーを走らせており、観光資源としても人気を博している。このゴンドラは都市景観の演出にも一役買っており、サンアントニオの都市アイデンティティの形成に大きく寄与している。テキサスにはこのサンアントニオ以外にもヒューストン、ダラス、オースティンという大都市が存在するが、州都であり大学都市であるオースティンを除くと、ヒューストンもダラスも大きいだけで、あまり都市的アイデンティティを有していない。それらの都市と比べるとサンアントニオは「ワン・エンド・オンリー」と形容されるだけの強烈な個性を擁しており、アメリカの大都市には珍しく魅力的である(オースティンも個性が強烈で魅力的ではある)。

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18年ぶりに訪れたが、その活気は失われるどころか、むしろより賑やかになっている印象を受けた。特にタワー・オブ・アメリカやハイアット・リージェンシー、総合スポーツ施設であるアラモ・ドームなどが集積している地区の再開発は、リバーウォークの結節点である位置づけをうまく活かしており、都心の魅力を向上させるうえで大きく寄与していると思われる。パサデナのコロラド街やサンディエゴのホートンセンターなど、バーナード・フリーデンが1991年に著した『ダウンタウン株式会社(Downtown Inc.)』で紹介した都心の再開発事例と同様に、その後、衰退することなく、上手く都心の活性化に成功している事例である。勿論、ミシガン州のフリントのように、民間活力を活用した都心の再開発事例でも失敗したものもあるが、このリバーセンターは極めてうまくいっているような印象を受けた。

河川をうまく活かす、という点では静岡県の三島市や東京の江東区や江戸川区、大阪市などウォーターフロントを擁する多くの日本の都市でも参考になるであろう。ちょっとテーマパーク的過ぎるかな、との印象も受けるが、都心の魅力を高めていることは間違いなく、そういう意味では都市デザインが往々にして貧弱な日本の都市は積極的に見習ってもデメリットよりメリットの方が多いと思われる。

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せっかく、これだけの歩く空間をつくったのであるから、出来ればここにアクセスするのも自動車ではなく公共交通を活用したいものである。公共交通を利用するのが相対的に得意なヒスパニック系の住民が多いことも考えると、ライトレールの導入を真剣に検討する価値のある都市であると思う。ライトレールを都心部と空港、そして近隣の住宅地などとで結ぶネットワークをつくることで、この都市はさらに魅力を増すことが可能であると思った次第である。


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