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田中角榮の『日本列島改造論』を読む [書評]

 田中角榮のベストセラー『日本列島改造論』を読む。日本の道路政策が暴走するようになった張本人として批判されている田中角榮の考えを知りたかったからであり、大学の図書館から借りて読んだ。極端な土木行政を提唱しているのかと思って読んだのだが、その先入観に反して、バランスのとれた日本の行く末をしっかりと考えた青写真が描かれており、田中角榮の政治家としての力量がよく理解できる立派な本であるとの感想を持った。
 土木行政のフレームワークをつくりあげた張本人というよりか、むしろ、ここで書かれていたような農業政策、土地利用政策、鉄道政策をしっかりと実施していたら、遙かに豊かな日本という国がつくりあげられたのではないかと思われる。
 幾つか、以下、引用しつつ、思ったところを徒然に書き記してみたい。
 社会資本整備が必要だと声高に主張している点は確かに多い。
「戦後日本は、敗戦直後のその日暮らしから高度成長経済へ、さらに国際経済へと三段跳びの飛躍をなしとげ、今日の反映を築きあげた。それは民間設備投資をテコとした成長追求型の経営運営と、人口・産業の大都市集中という全国的な都市化が進行するなかで達成された。しかし、明治百年をひとつの境にして、繁栄のなかの矛盾が急速に表面化してきたこともまた事実である。インフレ、公害、都市の過密と農村の過疎、農村のゆきづまり、教育の混迷、世代間の断絶などである。こうした先進国に共通する難問のなかで、とくに国民経済の伸長や国民生活の向上にとってブレーキとなっている社会資本ストックの不足は急速に埋められなければならない」。
「民間設備投資や輸出の伸びが大きく期待できないとしても、こんごの我が国経済の成長を支えうる要因はまだ十分に存在している。
 その一は、社会資本投資の拡大である。四十五年の国民一人あたりの社会資本ストックは、四十五万円であった。これはアメリカの三分の一、イギリスの八分の五、西ドイツの三分の二にすぎない。過密と環境の悪化を防ぎつつ、より高い水準の生活と大きな産業活動を実現し、美しい日本を築くためには、なによりも社会資本の全国的な充実が必要である。アメリカとの格差をなくすためには、70年代をつうじて270兆円程度の社会資本投資が必要であると計算されている。公園、運動場、下水道、ゴミ処理場、医療施設、港湾などを緊急度の高いものから建設し、整備し、拡充していくことが、国民から強く求められている。」

 しかし、何でも造ればいいという考えを持っている訳では決してない。例えば、バイパス道路の整備によって、農地が大規模ショッピングセンターに転用してしまっていることが多くの地方都市の中心市街地の衰退をもたらしているが、そのような事態を予め防ぐような提案もなされている。
「優良農地を保全し、財政の援助によって改良された農地を農地以外に転用することを規制するため、新しい観点から必要な立法を行ない、農地法の廃止にともなう弊害を取り除くことが必要である」
 また、コンパクト・シティをもその必要性を既に指摘している。
「東京、大阪の道路率をニューヨークなみにしようとすれば、すべての道路幅を三倍にしなければならない。公園は十倍以上に広げなければ追いつかない。そして業務能率を高め、経済的、社会的コストを安くするためには、都市はコンパクトでなければならない。こうした要請を同時に満たすには、平面都市を立体都市に改造するほかはないのである」
 スプロールを防ぐ、という観点からは斬新な提案がされている。非常に賢い政治家であるということが分かる。
「土地の所有者が土地を宅地として譲渡し、利用する場合には区画整理を義務づけ、開発業者には開発許可制を適用する。造反建築にたいしては電気、ガス、水道、電話など新規の敷設を禁止する。」

 確かに道路三法を制定するなど、田中角榮が現在の道路族の権力を肥大化し、その暴走を許す基盤をつくったことは間違いない。しかし、角榮は日本の繁栄、日本の国力の向上のための社会基盤の一つとして道路整備の重要性を謳っており、同じように社会資本としての鉄道の整備などの重要性も主張している。あくまでも日本の国力を向上するための道路整備であり、現在のように、道路のための道路整備といった発想、既得権を守るための道路整備といった考えはほとんど持っていない、しごく真っ当で正当な政治家であるということが、少なくとも本書を通しては伺い知ることができた。彼が諸悪の根源であるという見方は少なくとも正しくないことは本書を読み、理解した。


日本列島改造論 (1972年)

日本列島改造論 (1972年)

  • 作者: 田中 角栄
  • 出版社/メーカー: 日刊工業新聞社
  • 発売日: 1972
  • メディア: -



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