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『道路問題を解く』を読む [書評]

山﨑養世氏による『道路問題を解く』を読む。帯には「矛盾だらけの日本の道路を正す」と書いてあり、ガソリン税、道路財源、道路公団の民営化、などに関して豊富なデータをもとに、鋭く分析が為されており、大変役に立つ。道路問題というのは、この本が指摘するように現在の日本を病んだ状態にさせている元凶である。特にその病が重篤なのは高速道路である。それは、世界で最もその通行費が高く、建設費もおそろしく高く(アメリカは3兆円でインターステート・ハイウェイを完成させたのに国土が20分の1の日本は43兆円もかかっていて、しかも年間2.5兆円を通行料金として支払っている。アメリカは基本的に無料。さらにアメリカは借金がないが日本は40兆円もある)、しかもなかなか完成しない。そして、この無駄の象徴のような高速道路は、これ以降もまたつくり続ける計画であり、さらに40兆円もの借金を我々、国民が負うという。ここで、我々、国民と言ったが、正確にはこれから産まれてくる日本人である。こんな産まれていきなり借金を背負わせるような国に産まれたくないよねえ。芥川龍之介の『河童』という小説だったと思うが、胎児にこの世に産まれてきたいか、と尋ねて、嫌だというと、産まれなくて済むような話があったと覚えているが、本当、こんな借金をこれからの世代に押しつけるなよ。こういうことを書いていると、多少、アドレナリアンが分泌されてくる。

日本の道路は世界で最も通行料も高ければ、建設費も高い。新しく出来た外郭環状道路の八王子周辺とか、首都高速道路の王子線を含んだ環状線とかは、目が飛び出るくらい高規格で金がかかっている。こんな高いもの、我々の税金でつくるなよな。どうしてこういうことが起きるかというと、道路の建設費が高ければ高いほど、役人は権力を持つことになるし、地元の業者に落ちる金も大きくなり、政治家もそれだけ道路事業を地元に持ってくる利権が大きくなるからである。それでいて、この道路をつくるための財源として、ガソリン税をはじめとした道路特定財源を死守するだけでなく、高速道路からも高い交通量をとって、それをまた道路をつくるため、すなわち自らの権限を温存するのに使っているのである。本当によくこんな横暴なことが続いているなあ、と思う。

小泉さんが「自民党をぶっ壊す」といって道路公団の民営化を政策として掲げた時、彼はある程度、この道路利権のシステムをどうにかしようと考えていた、と思う。しかし、結果としては、道路公団の民営化は、道路族や道路役人を焼け太りさせただけであった。とはいえ、結果として立候補しなかったが、道路を欲しい、欲しいとだだっ子のように言っていた東国原知事が「自民党をぶっ壊す」と言って自民党議員として出馬しようとした時には呆れたね。東国原知事が頑として拘泥したものこそ、まさに小泉さんが壊そうとした「自民党」利権体質の一つであったからである。

まあ、いろいろと道路問題に明るくなれる良書であると思う。高速道路無料化という提案も、高くて使われなくて宝の持ち腐れ、という筆者の見解が正しければ無料化するのもありかな、と思う。何兆円もかけてつくって、しかもこれからつくる超高規格の道路整備のために高額の通行料をとってしまい、結局車が走らないという筆者の指摘通りなら、本当に高速道路は無駄だよね。しかし、高速道路が無料化するとETSもまったく必要なくなるな。これにもどんなに金が注ぎ込まれたのであろうか。

全般的に良書ではあるし、道路問題をてっとり早く理解するにはいいと思うが、高速道路を無料化すれば地方が豊かになる、という認識には異を唱える。これは、現在執筆中の本の内容と関係あるので、ここでは申し訳ないが詳しく記さないが、縮小経済においては、道路整備による地域を活性化する効果は極めて限定的になる、というか条件によってはマイナスを加速化する効果さえある。高速道路が無料になれば、急にその地方に人が定着したり、大都市から人が来たりする訳ではない。特に、これから予測されるようにガソリン代が高くなるとなおさらである。

また、海外の事例をよく紹介するが、どうもここらへんの情報は怪しい。アメリカに関しての記述等が怪しいので、フィンランドに関して結構頁を割いているが、ここらへんもしっかりと調べていないのではないか、と疑ってしまう。その点はとても残念だし、本の趣旨から離れていたのでまさに蛇足であると思われた。他の部分がしっかりとしていたので尚更残念である。


道路問題を解く―ガソリン税、道路財源、高速道路の答え

道路問題を解く―ガソリン税、道路財源、高速道路の答え

  • 作者: 山崎 養世
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2008/03/14
  • メディア: 単行本



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