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三善里沙子の『中央線の呪い』を読む [書評]


中央線の呪い (扶桑社文庫)

中央線の呪い (扶桑社文庫)

  • 作者: 三善 里沙子
  • 出版社/メーカー: 扶桑社
  • 発売日: 1999/03
  • メディア: 文庫


三善里沙子の『中央線の呪い』を読む。ずっと前に買って、積ん読しておいた本だ。積ん読するようなボリュームでもないし、関心も持っていたのだが、ずっと放っておいた。1994年に出版され、1997年の再版ものであるので、おそらく私がアメリカから帰国して当時、上司であった中央線をこよなく愛する三浦展氏に感化されて購入した本だと思う。だから10年くらい積ん読していた訳だ。当時、三浦氏は吉祥寺に住んでおり、私は方南町に住んでいた。私は、上司のお酒の誘いは断らない、ということだけを信条とするようなサラリーマンだったので、飲んべえの三浦氏とはよく飲みに行ったものだ。そして、その行き先は中野、高円寺、阿佐ヶ谷、荻窪という中央線の四本柱をローテーションするようなものであった。たまに谷間デーに四谷や新宿に寄っていた。中野のサントリーバー「ブリック」、高円寺の啄木とか、阿佐ヶ谷の中杉とかに連れて行ってもらった。会社のそばにある神田や銀座にはほとんど行かなかったと思う。六本木や麻布十番には間違っても行かなかった。そういういわばお洒落な場所に行きませんか、と三浦氏を誘うものなら、「お前は本当にいいものが理解できないな」と馬鹿にされるのがオチだった。飲むなら中央線という強い信条を三浦氏は有していた。おそらく、今でもそうなのではないだろうか。まあ、そういう生活をしていたので、私も三浦氏の考えを理解しようと、三善里沙子の同著や、東京人の中央線特集などを買ったのだが、まあ読まないで今日に至ってしまったのである。
 そういう状況だったので、ちょっと前に、高円寺に街歩きに行き、ああそういえば、そういう本を買っていたな、読まなきゃ、という気分になり、読んだのである。読むのには4時間くらいしかかからなかった。この10年間、この4時間が見つけられなかったのか、と思うと情けない。
 さて、古くなってしまったということはあるが、これはなかなかの名著である。素晴らしい観察力、分析力、そして編集能力。私が講義するフィールドスタディで学生が習得することを求めている力を、この著者は非常に高いレベルで有している。中央線がなぜ、摩訶不思議なのか、なにゆえここまで魅力があるのか、というのが説得力をもって説明されている。面白いのは、しかし中央線が摩訶不思議なアイデンティティを具有するのは、こういう本でそのコンテンツが編集されてからである。編集されると、人々はそれが凄い!ということが理解できるからである。また、本という媒体の存在が、その理解を共有化させる。理解が共有化されると、それは社会的通念となる。そして、この社会的通念ができてこそ、中央線はそういうもんなんだ、とのアイデンティティを獲得するのである。そういう点からも、この本は極めて優れたものであると考えられる。




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