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副都心線が東京に与える影響は「蚊が刺す程度」だ [都市デザイン]

副都心線が今日、開通する。東京の流れが大きく変わる、今までなかったのが不思議、とか結構なもてはやされようである。有識者も、これは凄い、と絶賛している者が多い。例として以下、経済評論家の森永卓郎氏のコメントを抜粋する(http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/o/99/)。

『開通当初から西武池袋線、東武東上線と相互乗り入れが行われ、将来的には渋谷駅で東急東横線、さらにみなとみらい線へも乗り入れる予定である。埼玉、東京、神奈川を結ぶ大動脈が出来るわけだ。(中略)これは単なる地下鉄の1路線の開通ではないようにわたしには思えるのだ。大げさに言えば、副都心線の開通が、東京の町を大きく変貌させるきっかけになるような気がしてならないのである。(中略)急行停車駅は、おそらく池袋、新宿三丁目、渋谷の3駅。となると、この三つの町がわずか10分程度で結ばれることになる。三つの地区がこれまでになく密接に結びつき、強力な集客力を持った「ベルト地区」が出現するわけである。(中略)1991年に東京都庁は有楽町を後にして、新宿に移転した。それ以来、東から西への都心の移動は加速されたように思う。そして、副都心線の開通が、とどめの一撃になってしまうのではないかとわたしは思うのだ。この路線の名前が、いつしか「副都心線」ではなく、「都心線」になってしまう日がくるかもしれない。』

私は、副都心線がそんなに人々の流動を変えるとは思っていない。もちろん、有楽町線の沿線の人達が新宿、渋谷に移動する頻度が増えたり、東急東横線沿線の人が池袋に行くことが多少は増えたりするかもしれない。沿線にある早稲田大学理工学部や学習院女子大学、戸山高校の学生達は利用するであろう。雑司ヶ谷がちょっとした街歩きスポットで注目されることもあるだろう(とはいえ、雑司ヶ谷が街歩きスポットとして魅力があるのは都電荒川線でアクセスするからで地下鉄で行ったら魅力半減だ)。しかし、総じて極めて地域限定的な効果しか生じないであろう。

森永氏は、池袋、新宿三丁目、渋谷の3駅がわずか10分程度で結ばれて凄い!と言っているが、埼京線はこれら3駅を8分で既に結んでいる。埼京線、そして臨海副都心線の方がはるかに広大な駅勢圏のネットワークを、副都心線より擁している。埼京線ができた時のインパクトに比べれば、はるかに副都心線のインパクトは少ないであろう。副都心線開通によって、新宿三丁目周辺は、多少人が増えるかもしれない。伊勢丹の客は増えるであろう。しかし、強力な集客力のあるスポットが増える、と言うのはあまりにも安易な考えで、実際は池袋の東武、西武、新宿の伊勢丹、高島屋、渋谷の東急、西武、といった沿線にあるデパート間での競争が激化することになり、伊勢丹の客が増えた分、他の、例えば池袋の西武デパートや渋谷の東急本店の客が減ることになると思われる。というのは、副都心線は既存のマーケットを結ぶだけで、例えば埼京線が赤羽、大宮間でしたような新たなマーケットを創出することはほとんどしないからである。せいぜい、雑司ヶ谷駅とかに高層マンションをつくる動機付けを不動産会社に供することぐらいだが、既にもう建っている。すなわち、既存のマーケットの移動の自由度を多少高めて、その消費の場所を変えるだけだ。パイを大きくする効果はほとんどなく、そのパイの配分の仕方を変えるだけの効果しかない。したがって、社会的には経済効果はないに等しい。だって、そもそも東横線沿線の人は渋谷、西武池袋線、東武東上線の人は池袋、という感じで同じ副都心線沿線にある駅で現時点で買い物をしているのだから。結局、沿線をトータルでみれば集客できていないということになる。銀座等、沿線外で買い物をしている人を、池袋、新宿、渋谷に持ってくるような効果はないのだ。

森永氏が指摘するように、東京の開発の流れは東から西へと移動している。しかし、彼が指摘している、副都心線の開発がとどめを刺すという見解には全く同意できない。副都心線は既に東京の西にいる人達が、東京の西で移動するパターンを多少、変更するような影響しか与えない。東にいる人達を西に持ってくるような効果は皆無だ。そういった意味では今までの地下鉄並みのインパクトも東京に与えることはないのではないか、と私は推測している。南北線は、他の地下鉄に比べると東京再編への影響力の小さい路線であったが、それでも副都心線よりは効果があった。王子以北の開発を促進したことや、麻布十番や白金高輪、六本木六丁目といった開発促進を促した。このような効果が副都心線には期待できない。一番期待したいのは、山手線の混雑緩和であるが、おそらく山手線利用者は大して副都心線にシフトせず、西武池袋線、東武東上線、東急東横線沿線の住民でさえも、依然として副都心線が並行に走っている駅でさえも山手線、埼京線を利用してしまうと思うのである。そもそも、通勤客の利用が多い新宿の西側ではなく東側を通っていることなども外している。新宿への通勤客の多くは依然として山手線を利用するであろう。新宿への買い物客が多く利用すると考えているのかもしれないが、現在のように道路がどんどんと便利になっている状況下では、そうでなくても多い伊勢丹への買い物客の自動車利用はさらに増えるであろう(とはいえ、現時点ではガソリンが高騰しているので一時的に減っているかもしれないが)。すなわち、現在山手線で新宿駅へ行っている人達の多くは、依然として副都心線ではなくて山手線を利用すると思うのである。

私の娘は東京の西にある杉並の家から池袋の中学校に通っているが、自宅のある方南町駅から新宿三丁目乗り換えで、副都心線に乗り池袋に行ってくれると定期券代が安くなるから、と勧めたのだが、副都心線の池袋駅からだと余計に歩くのと階段の上り下りが嫌だということで、山手線で行く、と断ってきた。私はまったく副都心線を利用することはないと思う。本当に珍しい機会、例えば早稲田大学の理工学部に用事がある時は使うだろう。しかし、そんな用事は5年に一度あるかないかだ。私的には極めて無用な線路である。私の実家は西武池袋線沿線にある。新宿や渋谷に行くのは全然、不便ではない。まったく抵抗なく行けた。これが副都心線開通によって、どの程度便利になるのか。おそらく、地下鉄の駅の上り下りの不便さを相殺するほどは便利にならないだろう。今でも実家に住んでいたとしても、新宿に用事がある時は、おそらく山手線で行くと思われる。まあ、有楽町線沿線に住んでいれば別だろうが。森永氏は「とどめの一撃」と言っているが、せいぜい「蚊に刺された程度」の効果しか副都心線は生じない。今、ここで予測しておく。

こんな的外れな発言をしている経済評論家がもてはやされている状況は、副都心線がもてはやされていることより頭が痛いことかもしれない。


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