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道路は本当に地方の生活を豊かにするのか [サステイナブルな問題]

自民党が「つなぎ法案」を撤回したことで、道路特定財源の一般財源化の是非を検討し、議論する余地が残された。自民党が「つなぎ法案」といった議会制民主主義をも否定するような奇策を強行しようとするほど、道路財源という「打ち出の小槌」は手放せないものなのであろう。ガソリン税の暫定税率は今まで何十年間も何の検証もなく延長してきたのだが、そのような隠し事を続けることがねじれ国会ではできなくなった。保守派の政治家にとって、このガソリン税を道路特定財源として確保することがいかに大切である、ということを世に知らしめただけでも、ねじれ国会はそれなりにプラスの側面があると思わせられるが、それはともかくとして、ここで述べたいのは、自民党、そして一部の民主党の議員や地方の経済同友会等が主張する道路特定財源の維持の理由が妥当かどうか、ということである。
 ここでは二点のみ、検討してみたい。一点は、本当に道路は地方を豊かにするか、ということである。朝日新聞の1月27日の「声」欄でも『地方在住者は道路を望まぬ』といった投稿文が掲載されたが、道路が豊かにする「地方」とは、「地方住民」ではないと思われる。それは、おそらく「地方の土建業者」、「地方を選挙区とする政治家」などであろう。2000年から2005年にかけて、都道府県別に人口の変化(出所:国勢調査)と道路延長の変化(出所:道路統計年報)の相関関係をみると、—0.14という数字になる。これは、道路延長が延びると人口はむしろ減少する、とも読める数字であり(基本的には相関関係はほとんどないが、どちらかといえばプラスよりはマイナス)、人口が地方の活力を示す一つの指標であると捉えれば、道路整備が地方の活力をもたらすとは堂々と無批判に主張できるものではない、と考えられる。国土交通省は、これまでも東京湾横断道路などの無用の長物を、地域活性化という御旗の元に強引につくってきた。しかし、それで地方を豊かにしてきた事例がいくつあるのだろうか。例えば東京湾横断道路に関しては、実際の交通量は計画を下回り、活性化されるはずの木更津周辺地域はむしろ人口を減らすような状況に陥っている。このトンネルをつくるのに、総工費として約1兆4409億円がかかった。これはデンマークとスウェーデンとを結ぶ全長が7845メートルのエースレンド橋の建設費が約6000億円(301億デンマーク・クローネ)であったことを考えると、極めて高額な公共事業であることが分かる。道路が通ると地方が豊かになる、という仮説はこの際、しっかりと検証することが求められる。財政が逼迫しているなら、道路特定財源を一般財源化すればいいし、物価高で人々の生活が苦しくなっているのであれば、ガソリン税の暫定税率を低くするかなくせばよい。道路特定財源をあたかも既得権益のように守り抜いていく必然性は、「地方が必要」という論拠だけでは、もはや人々は納得できないであろう。
 もう一つは福田首相が28日の予算委員会で発言した「道路特定財源は受益と負担の関係が明確だ」という点に関してである。ガソリン税によってつくられる道路の多くは、その利用者と関係のない、場合によっては一生に一度も使うことのない道路やトンネルの整備費に使われる。むしろガソリン税などの税率は地方分権させて、地方ごとに決めさせ、道路整備も地方行政にさせるぐらいのことをしてからでないと、受益と負担の関係が明確だとはいえまい。加えて、国土交通省の職員宿舎の建設費やレクリエーション費までが道路特定財源から捻出されているのは、明らかに受益と負担の関係性がない。それに、道路利用者は必ずしも道路の拡張や整備だけを望んでいる訳ではない。公共交通サービスが劣化してしまった地方において、他に選択肢がないからしょうがなく自動車を利用している高齢者などの人達は、むしろガソリン税によって自動車の代替交通機関が整備されることの方を望むであろう。実際、アメリカでさえも1992年に道路整備財源を代替交通機関の整備等に使用できるというISTEA法を制定した。これはガソリン税の暫定税率と同じような時限立法であるが、その後、TEA21法によって引き継がれた。
 自民党も一部の民主党員も、道路整備こそが地方に豊かさをもたらす、といった論調で今までずっと道路の必要性が主張されてきたわけだが、道路は地方に豊かさをもたらすわけではない。それは、極めて短期間においては、土建業者を潤すことができる。またつくってしまえば維持管理でまたお金がかかる。要するに、道路をつくることは国税を地方に配分するチャンネルをつくるという効果においてのみ地方を豊かにするのであって、実際の社会基盤としての道路が地方を豊かにすることはほとんどない。それなら、むしろ道路をつくるという間接行為ではなく直接、中央から地方にお金をあげた方がいい。議員達は道路こそが生活、と主張するが、それは道路整備という公共事業が地方の経済を活性化させるという点のみにおいて意味をなす。そして、この構造事態が地方の公共事業依存を高め、その自立を遠ざけている原因である。そうでないなら、どうして道路が出来る前の方が、地方が豊かで、道路ができてから衰退してきているのか。お願いだから誰か説明して欲しい。

道路整備の結果、地方にもたらされたのは地域の中小小売業の倒産、ミクロでの生活圏における生活環境の悪化、そして人々の流出である。観光客が増えた、という指摘もあるが、実際には道路が便利になったので以前は宿泊していた観光客が日帰りで帰れるようになったので入れ込み客数が増えても、売上げにはつながっていないケースが多い。道路が地方を豊かにしているのか、感情的ではなくしっかりとした調査、研究に基づく議論が切に望まれる。


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