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クリチバ対ブラジリア [都市デザイン]

ブラジルの首都ブラジリアは空からみると鳥の形をしている壮大なる空間デザインが施され、すべての道路は高速道路のようにスムーズに交通が流れるように設計され、信号もなく、立体交差だらけで、道路の幅もめちゃくちゃ広い。土地用途は明確に区分され、社会主義のプラッテンバウと呼ばれる団地よりさらに秩序だってつくられている。通りの名前は番号なので、レストラン街は221番街、アパレル街は184番街と数字を覚えなくてはならない(数字は適当)。頭で考えた都市計画を徹底的にやり通した、という点である意味、痛快だが、現実問題としては、この都市はもはや機能麻痺に陥ってしまっている。まず交通渋滞。どうしょうもなくなったので「高速道路」には信号がつけ始められた。歩いて移動することは命懸けだが、道路も機能しなくなりつつあるので、歩行者の動線も確保しなくてはならなくなっている。

ということで、その解決にブラジリア市長から呼ばれたのがレルネル元市長を始めとしたクリチバ・チーム(レルネル・チーム)である。レルネル氏は、大学時代に高架道路を中心部につくろうとしていたクリチバ市に対して、パラナ連邦大学の建築学科や土木学科の生徒たちで反対グループをつくり意見書を提出して、その高架道路をつくることを止めさせた実績を持っている。クリチバ市長時代でも高速道路はもちろんのこと、立体交差も地理的な事情がある場合を除いてほとんどつくっていない。それでいて170万の都市人口の交通需要をうまく捌くシステムをつくりあげたのである。人を中心とした都市づくりをしてきたレルネル・チームが、人を無視した都市づくりをしてきたブラジリアに挑む。既に、数年前からレルネル氏の片腕であった元クリチバ市長のカシオ・タニグチはブラジリアの都市住宅環境局のトップを務めている。タニグチはレルネル市長のもと都市公社、クリチバ都市計画研究所(IPUCC)のトップを務め、またレルネル氏がパラナ州知事の時は企画局長、さらにレルネル氏がコンサルタントをしていた時は営業部長として活躍するなど、常にレルネル氏の仕事がスムーズに進むための環境づくりを行ってきた。あとは、レルネル氏がいかにブラジリアに都市治療を施すのか、というだけの筈であった。

しかし、官僚主義の権化、ブラジリアは非常に手強かった。レルネルはブラジリア市長から三顧の礼で呼ばれているにも関わらず、レルネルの提案をブラジリア市役所の役人たちは、「素晴らしい案ですが、この点で実現できませんね」、「素晴らしい案ですが、それを実行する予算はありませんね」などと言って、それを実行しようと動かないのである。まあ、いかにもという対応ではあるのだが、動かない部下とレルネル氏の板挟みになったタニグチ氏は体調を崩し、入院。レルネル・チームの中村ひとし氏も、100日で公園をつくります、とプレゼンテーションをしたのに、全然役人たちが動かず、ほとほと嫌になって退散。レルネル氏も現在、一歩退いている。しかし、レルネル氏もそうそうやられてばかりはいられない。現在、朋友のオスカー・ニーマイヤーの協力のもと、「ブラジリアの将来ビジョン」という展示会をブラジリアでする計画をしている。この展示会をすることで、市民たちにレルネルさんの考えを理解してもらう、という意図である。市民たちが盛り上がれば、役人たちもそうそう「無理だ」、「駄目だ」、「金がない」とは言わなくなるであろう、という作戦である。

まあ、この展示会が吉と出るかは不明だが、ブラジリアという都市がどうしょうもない状態からなかなか抜け出せない一つの要因が、働かない役人である、ということがちょっと見えてきた。ブラジリアとクリチバ、同じ国の都市ではあるが、大きな違いは都市のコンセプトだけでなく、その都市の運営を担っている人達にもあることが分かった。いや、都市の違いがもしかして、役人の気質を形成するのに影響を与えているのか。どちらにしても、クリチバではなかなか歯が立たないほどブラジリアはどうしょうもない状況にあることは確かなようだ。

写真は人を中心とした都市づくりを実践してきたクリチバ市の象徴的都市空間「花通り」の最近(2月18日)の様子


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