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四国の宇多津と大歩危を訪れ、この国の地方の将来に暗澹たる気持ちになる [都市デザイン]

高松から高知へ鉄道で移動する。途中、宇多津という町を通り抜ける。瀬戸大橋線と予讃線の結節点となる駅である。背景の瀬戸内海の藍色が美しい。しかし、駅周辺のあまりの醜さに驚いた。ひらがなで「はるやま」とでかでかと描かれた看板。デザイン性はゼロで、ただひたすら主張があるだけの広告板であり、景観における広告板の是非を問う以前の醜悪さである。それだけでも驚くのに、その隣に巨大な人形。しかも、この人形が「ちびまるこ」に出てくる、だらしない鼻水をいつも垂らしているかのよう風貌の人形なのである。どうも、酒屋らしい。屋根には、この巨大な人形と同じ人間が製作したと思われるやや小さめの人形が並べられている。商業施設の醜さだけではない。駅周辺は、マンションが所狭しと建てられている。

なぜ、この宇多津の景観がこれほどまでに醜悪なのか。それは景観に「公」の要素がまったくみられないからである。どの土地も、利益を中心の考えに基づいてつくられている。利益をあげるには、より多くの人を集客させるためには、デザイン性がゼロでもとにかく目立つ看板をつくることが勝ちであるという発想。容積率が許すのであれば、とことん床面積を増やして儲けてやろう、という発想でつくられるマンション群。そして、そのような地主のエゴを発揮しやすくした区画整理と幅広い道路。そこには、この町を将来、素晴らしいものにしようという発想はかけらもみられない。ただ、地主や地元の権力者が一儲けしてやろうという考えだけが、その景観の醜さに反映されている。

宇多津は、今でも市ではなく町なので、瀬戸大橋線が開通しなければ、ほとんど投機的な不動産価値を有していなかったであろう。この瀬戸大橋線は国民の税金でつくられたものなので、その開発利益は広く納税者に還元されるべきものである。しかし、そうはならない。そこの地主だけが濡れ手に粟で儲けるのである。まあ、それはここではとかく非難はしない。しかし、問題は、そのような千載一遇のチャンスを活かして、そこで生活する人を幸せにして、そこを訪れる人が好意を抱くような空間をどうしてつくろうとしなかったのか、ということにある。そんなに不動産で儲けたいのか。本当に金が好きだよねえ。まあ、私も常に金が不足して苦労しており、金のために奔走しているような人生を送っているが、せっかくの瀬戸内海をバックにした美しい土地を、ここまで欲によって醜悪の景観に変えようとは思わない。この民度の低さは、冗談ではなくて大きな問題であり、この国の地方都市の将来が暗いことを示唆している。確かに地方都市の経済は疲弊しており、中央との格差も広がっている。しかし、それは構造的な問題というよりかは、地元において、このような自らの資源、価値を収奪するような海賊的行為が跋扈していることが大きな原因であると思うのである。国民の税金をじゃぶじゃぶ無駄にして不必要に高規格の道路を田圃の中につくり、利便性を上げると周辺の農地をせっせと大規模ショッピングセンターに貸し付け、中心市街地を破壊させ、それでいて中心市街地の補助金を中央政府からもらい、中心市街地の地主を儲けさせるようなことばかりをしている。そして、地方の権力者はまず100%近く、子供達を東京か大阪に行かせる。自らの故郷を収奪した金で、子供達を脱出させるのである。そういう地方の問題を、この宇多津の駅前の景観から私は読み取ったのである。

などと書いていたら大歩危を電車は通過した。大歩危は吉野川がつくりだした渓谷美である。山の緑、白い岩石、そしてエメラルド色の川の色彩のコントラストが美しく、急峻な渓谷のダイナミズムが強烈な印象を与える素晴らしい景観である。しかし、ここでも巨大なコンクリートのドライブインがなんと!渓谷にせり出すようにつくられていた。素晴らしい景観が台無しである。というか、希代の美女であるにも拘わらず、ほおにごきぶりの入れ墨をしてしまったようなものである。入れ墨屋が彫る場所が欲しいがために・・。こんなことまでして、金を儲けたいのか。というか、どうして、こんな建築物をそもそもつくれるのであろうか。もし、建築基準法の構造関係から、このような醜いコンクリート構造物にしなければいけなくなったとしたら、なんたる皮肉であろう。大歩危・小歩危ははじめて訪れたが、結構、素晴らしい観光地となる条件を有していたと思われる。しかし、それを単なる金儲けの手段としてしか捉えられない発想が、その観光資源そのものをも破壊させてしまった。もちろん、現状でもある程度の観光地ではあるかもしれない。しかし、本来的な価値は現状よりはるかに高いものであった。そういうことを理解できないことが、地方の衰退をもたらす要因の一つであることは間違いないと私は思うのである。


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