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クリス・ポールとジョーダン・プールのトレードについてポイントをまとめてみる [スポーツ]

6月22日(現地時間)、ウォリアーズがウィザードとトレードを遂行した。ウォリアーズは38歳の殿堂入り確実のポイント・ガード、クリス・ポールを獲得し、ウィザードはジョーダン・プールと2022年のドラフト選手、ライアン・ロリンズ(2巡目)とパトリック・ボールドウィン・ジュニア(1巡目)、さらに将来の2つのドラフト権を獲得した。
 このトレードに関しては本場アメリカでも相当、賛否両論(というか賛成は少ないが)で随分とスポーツ・ラジオやスポーツ番組を賑わせているが、日本のNBAファンのツィッターなどをみていると、あまりにも背景の理解がなさ過ぎるものが多いので(例えばクリス・ポールじゃなくてブラッド・ビールとトレードできただろうなどという呑気な意見)、ここでこのトレードの背景にあった理由などを整理してみたいと思う。
 まず、このトレードをなぜウォリアーズが遂行しなくてはいけなかったのか。それはコレクティブ・バーゲニング・アグリーメント(俗にいうCBA)が2023年7月1日から施行されるからだ。これによって、次のようにルールが変わる(7年間有効)。
1) 贅沢税(Luxury tax)を1750万ドル超えているチームは幾つかの制約事項が生じる。「トレードで出す選手の年俸より得る選手の年俸が高くなってはいけない」「ファースト・ラウンドのドラフト権を7年間トレードに提供することができない」「金銭トレードをしてはいけない」などである。
2) 契約延長に関しては、ベテラン選手であれば前年より140%まで上げることができる(それまでは120%)。
3) サラリー・キャップは毎年10%ほどに上限が設定される(これは2016年に32%の上昇を許したため、ウォリアーズがケビン・デュラントと契約できたことを反面教師としている)。
このCBAルールはウォリアーズ潰しと言われるほど、スーパー・チームをつくらせないことを意図している。
 さて、そのように考えて、現在のウォリアーズの年俸状況を整理してみよう。まず、昨年度のウォリアーズの年俸の総額は3600万ドル。これはNBA史上最高額である。個別にみると、次のようになる。
*ステファン・カレー(約48億円)(簡単にするために1ドル=100円で計算している)
*クレイ・トンプソン(約40億円)
*アンドリュー・ウィギンス(約33億円)
 ここで、ジョーダン・プールだが、今年度は約3.9億円であったが、来年度から28億円、30億円、32億円、34億円という4年間で124億円という巨額契約が執行されることになるという状況にあった。
 さて、ここで重要なのはウォリアーズ三羽がらすのドレイモンド・グリーンである。彼は今年で契約終了だが、今年度は26億円であった。そして、このドレイモンド・グリーンはプレイヤー・オプションでの契約延長を選択することをせず、フリー・エイジェント宣言をした(これはウォリアーズもほぼ計算済み・・さすがに一年延長ではなく、33歳のドレイモンドが最後のフリー・エイジェントの機会を活かして長期契約を求めるのはある意味、当然である)。
 このような状況から、ウォリアーズが何をするべきかを考える。まず、ウォリアーズは半年ぐらい前までは、相当、傲慢な考えを有していた。それは、カリーやグリーンがつくりあげた黄金期が衰退した時には、新しい若い世代で新しい黄金期をつくりあげるという傲慢なシナリオである。この若い世代とは、ドラフト全体二位のジェイムス・ワイズマンやジョーダン・プール、ジョナサン・カミンガ、モーゼス・ムーディ等である。これは、瞬間的に上手くいくかもと私も期待した時があったが、ジェイムス・ワイズマンはまったくの期待外れに終わり、5つのドラフト権2位(これはゲイリー・ペイトン・ジュニアとのトレードで使われた)とトレードされた。そして、ジョーダン・プールも一昨年度はリーサル・ウェッペン3とか、プール・パーティーとかもてはやされていたが、今年度、特にプレイオフでは、そのバスケIQの低さ、ターンオーバ−・アシスト率の悪さ、ショット・セレクションの不味さからグリーンだけでなくカリーからも怒られるような状況に陥ってしまい、プレイングタイムももらえないほどカー監督の信頼を失っていた。
 そのような状況下、カリーという超絶スーパースターがまだ衰えていない今こそ、勝負をすべきであるというのがウォリアーズの戦略となった。若手が育つのを待っていたら、貴重なカリーという選手がいる機会を失ってしまう。つまり、カリーを中核としたチームで優勝を今、狙いにいくというのがウォリアーズの戦略になったのだ。
 そのように考えると、まず優先させることはグリーンの再契約である。さて、しかし、グリーンと再契約するには持ち金がない(いや、金はあるけどルール上使えない)。新たに導入されるCBAの規制では、誰かの巨大契約を取り除かなくては無理である。そこで、誰の契約を取り除くといいのかを考えると一目瞭然である。ジョーダン・プールの契約だ。しかも、グリーンとプールは今年度のシーズン前のパンチ事件以降、表向きは問題がないと言っても、ずっと尾を引いていた。アウエィでの勝率の悪さはまさにそれを物語っていたし、プールがトレードされた直後に、グリーンのインスタグラムから外れたというニュースが流れたが、プールはずっと根に持っていたのだろうな。ただ、グリーンのパンチは映像で流されたので、非常にインパクトは大きかったのだが、どちらかというと、プールがそこまで怒らせることをしたのか、というように私を含めて多くの人が思っていたところもある。どちらにしろ、両者が和解できないことは一目瞭然である。それでは、どちらが重要か。これはカリーの才能を活かすという点では、もう異論はないだろう。ドレイモンド・グリーンである。
 さて、しかし、このジョーダン・プールのトレードは、この契約額の大きさのために誰も欲しがらなかった。ウォリアーズはジョーダン・プールとともに心中するしかないのか。私などは、もうジョナサン・カミンガをつけてトレードするしかないかも、と悲観的に思っていたのだが、ジョナサン・カミンガをつけなくても、昨年度のウォリアーズがドラフトした若手二人と2つのドラフト権で受け取ってくれたとは願ったり、適ったりである。おまけにクリス・ポールと交換である。彼は来年度の30億円という契約しかないから、来年度以降、再契約を考えなくてはいけないクレイ・トンプソンのことを考えても好都合である。
 ということで、ジョーダン・プールの契約から開放されることで、初めてウォリアーズは将来を描くだけの可能性を獲得することができたのである。もちろん、クリス・ポールじゃない人材もいただろう、という指摘はある。しかし、38歳のクリス・ポールと24際のジョーダン・プールとのトレードに若手(ドラフト権を含む)を4人もつけなくては成立しないほど、ジョーダン・プールのトレード価値は低いのだ。もはや、バスケットの能力だけでトレードを考えるような時代ではないのである。
 さて、この文章の最初の方でブラッド・ビールとトレードできる訳ないだろう、と書いたのは、ブラッド・ビールは現在のNBAの選手で唯一、「ノー・トレード」の契約条項を有している選手であるからだ。これは、極めて選手に有利な契約で、チームに不利である。ブラッド・ビールのトレードでサンズが失ったものが少なかったのは、それだけウィザードがビールというバスケット選手よりかは、ビールとの契約を忌諱していたからである。まあ、ババ抜きのババである。もちろん、ビールの「ノー・トレード」条項はサンズに行っても生きているので、こんな選手はいらない。ビールの年俸って約43億円である。ビールがサンズに行って喜んでいるサンズ・ファンはちょっとおかしいのじゃないか、と思う。ちなみに私が「ノー・トレード」契約を結んでいいと思う選手は、コーベ・ブライアント以降ではステファン・カリーと、強いて言えばヤニス・アデトクンボくらいである。
 もちろん、このような契約を結んだのは、ウィザードがアホだったからだし、ジョーダン・プールが4年間で124億円の契約を結んだのは、ベスト・エクゼクティブの誉れの高いボブ・マイヤーGMの判断で、個人的には、このマイヤーの経営ミスはウォリアーズの将来の可能性を摘んだと結構、怒っていたので、今回、マイク・ダン・リーヴィー・ジュニアGMが、このウォリアーズの癌(ジョーダン選手というより、ジョーダン選手の契約)を取り除いたことは、非常によかったと思っている。
 あとジョーダン選手の契約が癌とは書いたが、ジョーダン選手はウォリアーズの最大の武器である「ケミストリー」を最も乱した選手であったことは間違いない。カー監督がパンチ事件から結局、復活できなかった、とプレイオフで負けた後に述べていたぐらいだから、ジョーダン選手がウォリアーズでやっていくことは非常に厳しかったのは間違いない。
 もちろん、現時点ではグリーンが再契約しない可能性もあるので、油断はできないが、ウォリアーズ・ファンにとってはよかった日であると個人的には考えている。
 あと、クリス・ポールはウォリアーズのファスト・ペースに合わないとか、実質的なポイント・ガードのグリーンと一緒にコートに立った時、どのように役割分担ができるんだ、と言った意見が、私も非常に一目置いているティム・レグラーやJJレディックといった評論家が述べているので、私も危惧してはいる。しかし、セカンド・ユニットの若手をしっかりと指揮し(グリーンはプールの一件で若手の信頼を得られていない)、また得意のピック・アンド・ロールもカミンガとのコンビでやったら無敵に近いのではと思ったりしているのだが、この意見はまだ寡聞にして、コメンテーターからは聞けてないので、私の理解が浅いのかもしれない。
 まあ、随分とだらだらと書いたが、指摘したいことは、これからの7年間は、NBAのトレードは、これまで以上に契約をも踏まえてのトレードになるので、単にバスケだけの観点でいろいろと意見をいうと、その背景にある大きな問題を見失うので気をつける必要があるということだ。とはいえ、アメリカ人のスポーツ・コメンテーターでもここらへんが分かっていない人が半分なので、日本人のNBAファンはなかなか難しいところもあるのはしょうがないかもしれない。

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