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「15分間都市(15 minute City)」は怪しい [都市デザイン]

 コロナで移動制限がされた際、注目されたのが「15分間都市(15 minute City)」というコンセプトである。これは、パリのアンヌ・イダルゴ市長が政策として採用したことで広く知られることになったが、これは自宅から徒歩・自転車で15分以内にアクセスできるところに仕事場、学校、小売店、アウトドア・レジャー、コミュニティ活動、病院、レストランなどが立地していること、すなわち、自宅から15分以内で日常生活に必要な用が足せるという都市環境のことを指している。このコンセプトを提唱したのはソルボンヌ大学のカーロス・モレノ教授である。
 自宅が都市計画の中心として位置づけられるのは、興味深い発想である。というのは、自宅はほとんど無数にあるために、これを計画するのは従来とは異なる考え方が求められる。つまり、学校、小売店、公園ごとに15分以内でほとんどの住宅をカバーするように設置することが求められる。これを都市計画で実践させるためには、学校や公園はともかく、小売店、コミュニティ活動の立地を計画的にコントロールすることが必要となる。そんな社会主義的な都市計画を本当に、我々は求めているのだろうか。そもそも、これってニュータウン計画の基本であり、まったく真新しくもない。そして、多くのニュータウンのコミュニティ・センターの小売店や銭湯(千里ニュータウンの場合だが)は閑古鳥が鳴いている。イギリスのニュータウンであるスティーブニッジやハーロー・ニュータウンでも近隣センターはシャッターが降りていて、薄ら寒い印象を与える。
 このような事態が生じたのは、人々が自動車で移動するようになったからだ。逆にいえば、自動車を持たない生活が選択できるような人が住んでいるところは、ほぼ「15分間都市」の条件を有している。東京23区はほとんどの場所がその条件を満たしている。私は目黒区に自宅があるが、まったく歩いてほとんどの用事が済む。公園も駒沢公園がすぐそばにあるので、気晴らしにはいい。それで済まないのは楽器屋ぐらいであるが、これは電車で渋谷に行くのが便利だからであって、歩いて行く範囲に楽器屋がない訳ではない。あと映画館やライブハウスなどは15分だとちょっと厳しい。
 仕事場のある京都市の中京区でもほとんど歩いて用事が足せる。ここは楽器屋も歩ける範囲にある。というか、ここはデパートも15分圏内なのでしごく便利である。ちなみに、ここでは映画館は小さいものだが15分圏内にある。
 さて、パリには住んだことがないので、なんとも言えないが、京都や東京のようなレベルには達してない気がする。いや、モンマルトル周辺とかだとできるかなとも思うが、東京の目黒区(自由が丘のそば)が劣るとはまったく思わない。ドイツのデュッセルドルフには住んだことがあって、ここも旧市街地のそばに住んでいたので、相当、便利ではあったが、東京や京都の足下には及ばない。というのは、そもそも流通が日本はおそろしく発達しているので、家の周辺に本当に物が溢れているのだ。これは、パリとかでもまったく足下にも及ばない。おそらく東京の都市が15分圏内を考えた時、公園が大きなネックになるかと思うが、私の場合、駒沢公園があるので、その条件がクリアできているというのはあるかもしれない。京都の家は御所がすぐそばにあるので、それでこの条件をクリアできている。
 サンフランシスコの近郊のバークレイに住んでいたこともあるが、ここは15分圏内ではほとんど用を足せない。クルマは必須に近い。ロスアンジェルスに住んでいたこともあり、ロスアンジェルスの場合は、最も歩行者に優しいと指摘されるサウス・パサデナ市に住んでいたが、それでも15分圏内ではほとんど何もできない。
 いや、何をつらつらと書いているのかと思われるかもしれないが、それは日本の大都市がいかに「15分間都市」として優れているかを理解してもらいたくて書いたのである。パリが参考にしなくてはいけないのは東京や京都であって、逆ではない。最近、なんか日本人の中で「15分間都市」が盛り上がっているので冷や水をかける意味で、徒然に書かさせてもらった。
タグ:15分間都市
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