SSブログ

郡上八幡は日本の「シエナ」である [都市デザイン]

 郡上八幡を訪れる。郡上大和には訪れたことがあるが、郡上八幡は初めてである。郡上八幡は人口が1万4千人の城下町である。飛騨高地の南に位置している。飛驒地方には高山や古川、白川郷を始めとして趣のある街並みが多く残されているが、郡上八幡にはいぶし銀的な独特な存在感、アイデンティティが感じられる。400年も続く、郡上踊りでも有名だ。
 郡上八幡の何が特別なのだろうか。郡上の街中を流れる長良川の渓流は迫力があり、美しい。この長良川に流れ落ちる瀬。奥入瀬にも通じるような清流の美しさはこの町の特徴であろう。
 さらに、道路が狭い。昭和30年代にこの町を突っ切る道路が計画された。しかし、その道路空間の用地買収がそれほど順調に進まなかった。そのうち、道路の必要性が問われるようになり、結果、この町の周縁部にバイパス道路ができ、通過交通がこの町を通ることはなくなった。したがって、旧市街地はヒューマン・スケールの歩行者主体のような空間が展開できている。ときたま、走り抜ける自動車が不愉快だが、自動車が通るたびに不愉快さを感じるというのは、それだけあまり走っていないということでもある。そして、ポケットパークを整備したり、案内板なども充実させたりして、歩いて楽しめる町をつくるようにした。
 また昭和50年から60年ぐらいに伝統的な街並みを形成していた建物が建て替わり始めると平成3年には景観条例を策定させ、街並み保全会を設立する。さらには、水の使い方に留意した。水を前面に出したような街並み、道路をつくることにしたのである。水を使った都市デザインである。これは昭和50年代の後半から平成6年頃まで実施してきたそうだ。守備に重視しただけでなく、攻撃的に美しい街並みをつくりあげてきた成果が、現在の郡上八幡の美しい都市景観をつくりあげている。この町の住民は、この町の何が重要なのかをよく理解しているのである。これは、日本の多くの町ができていない点であることを踏まえると、驚くべきことである。
 これに加えて、チェーン店がない。人口が1万4千人もあるのにコンビニエンス・ストアもないのだ。代わりにあるのは、伝統的な味噌を守り続けてつくっているお店(大黒屋)や、手間のかかる手焼きの煎餅をつくり続けているお店や、地酒屋、下駄屋などである。そば屋も多いが、そば屋はこの5年以内で3店舗も増えた。それまでは街中では1軒しかなかったそうだ。水の綺麗なイメージと観光客が増えたことで、そば屋が成り立つようになっているのであろう。このようなチェーン店のない商店街は、その地域の風土を反映させている。とても個性の強い、地域性のある街並みがつくられている大きな要因であろう。
 そして、その背景には「産業振興公社」といった、観光でまちづくりをするための組織を設置したことなどもある。この公社は空き家を手に入れて、それを改修して、新しくこの町に来る人に住んでもらうようにしたりしている。
 八幡の街づくりに35年以上携わった武藤さんにお話を聞いたのだが、その街づくりの考えとして次のように述べてくれたのが印象的であった。「郡上はすっぴんでも美人なんです。だから、いらん化粧などをしない方がいい。化粧でその美しさを台無しにしないように、街並みの美しさを引き出すように心がけました」。町の素材の良さが前提であったかもしれないが、町のよさをしっかりと理解したうえでのアプローチであると思われる。
 私は、ここはイタリアのシエナのような町だと思った。その伝統的や歴史的なよさをしっかりと維持し、自動車ではなく人間中心、そして地域性をしっかりと発現させようとしている人々に支えられている町。シエナのパーリオと郡上踊りも類似点が多い。
 日本にもこんな素場らしい町が存在するのである。最近、日本人としてのプライドが地に墜ちていたのだが、こういう町があることを知ると、日本人も捨てたものではないなと思わされる。

nice!(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0