SSブログ

ウガンダにて、なんちゃって野生ゴリラ・トレッキング・ツアーに参加する [地球探訪記]

 ルワンダの観光の目玉は、野生ゴリラを観るためのトレッキング・ツアーである。しかし、そのためには2泊3日しなくてはならず、我々のタイトなスケジュールに入れ込むのは無理なので泣く泣く断念した。
 さて、しかし、後発組を迎えに行った飛行場である事件が起きた。飛行場の待合い場(待合い室のような立派なものはない)で後発組を待っていた我々にある旅行代理店風の男が話しかけてきた。そこでゴジラ・ツアーという言葉を耳にした先発組のメンバーの一人が反応する。そして、遠くにいた私が呼ばれた。この話しかけてきた男によれば、野生ゴリラのトレッキング・ツアーを日帰りで行うことができると言う。しかも、我々が唯一、自由に動ける明日にすることができると言うではないか。これは、千載一遇のチャンスであると思い、細かく話を聞く。すると、朝の6時30分にホテルに迎えに行けば、余裕でゴリラがみれるトレッキングを組めると言うではないか。私が事前に調べていた情報とは随分と異なるが、値段は国立公園に払うために一人あたり600ドル。さらには、交通費で一人あたり100ドルの合計500ドル(我々のメンバーは5人いた)を請求してきた。我々は、一人あたり100ドルで合計500ドルはおかしいだろう、ということで一人あたり60ドルにまでまけさせる。
 ということで、ちょっと怪しい感じもしたが、野生のゴリラが見えるのも下手したら一生で一度かもしれないと考え、この話に乗った。さて、しかし、こちらに来た知り合いの日本人にこの話をすると、「ルワンダでは事前にパーミッションの振り込みがなければ、絶対にゴリラ・ツアーには参加できない」と教えてくれる。どうも、滅茶苦茶怪しいと思ったが、まあ、裏ルートがあるのかもしれないし、まあ、外れたら外れたで、その時は交渉し直そう、殺されるまではないだろう、と考え、そのまま決行することにした。
 さて、翌日、朝の5時にホテルの電話が鳴る。出ると、この旅行代理店の男、ヒラリーであった。「朝の6時30分じゃないのか?」というと、ウガンダ時間だともう6時だと言う。なんで、ウガンダ時間なのかはすぐには分からなかったが、どうもゴリラ・トレッキングに行く目的先がウガンダであることが分かった。ということで、皆に急いで連絡し、5時40分にロビーに集合して出かけることにした。
 ルガンダでは無理だが、ウガンダでは可能なのかもしれない。そう考えると筋は通っていると思い、ちょっと安心する。車は、ルガンダの田舎の風景の中をしばらく走っていく。そして、ウガンダとの国境を越える。ウガンダとの国境越えをするのには、まずルガンダを出国しなくてはならない。これは、それほど難しくない。次のウガンダの出国ではビザ代で50ドル要求される。しかし、比較的、好意的であった。思ったよりも楽にウガンダに入国できる。
 ウガンダはルワンダに比べると、あたかもタイムスリップしたかのように発展から取り残されるような印象を覚える。道路は悪路となり、農地も荒んでいる。そして、何より驚いたのは、車の通行が左右、逆になることである。ちょっとボケッとしていると逆側を通行するのではないだろうか。しばらく行くとカバレという町に着く。ルワンダの町よりずっと汚い感じだ。朝食を食べることにするが、ウガンダ・シリングがないので注文できない。しょうがないので、両替に行く。日曜日なので銀行はすべて閉店。お酒を売っている万屋のような闇両替所で交換する。おそらくレートは滅茶苦茶悪いのではないかと思われる。朝食はサモサとコーヒー、というかミルクにインスタント・コーヒーを入れただけのカフェオレもどき。
 さて朝食を食べた後、途中でガイドという男を乗せる。このガイドの格好が、およそガイドっぽくない。ただのグレイのパーカーと野球帽を被っている。怪しい。しかし、このガイドはゴリラ・トレッキングの注意事項を説明始めている。私は、ブウィンディ原生国立公園にはゴリラが何頭いるのか、とガイドブックで答えを知っている質問をぶつける。ガイドは正解を述べるので、ちょっと安心する。まあ、偽物だとしても、ある程度、誠実な偽物であろう。
 さて、車は一路、ゴリラ・トレッキングのブウィンディ原生国立公園に向かうのかと思いきや、ブニョニ湖などに寄る。よく分からない。また、国立公園に向かうのに随分とゆっくりと走る。何か怪しい。怪しいといえば、まだ車窓には段々畑が続く。こんなに人里が近い所にゴリラがいる筈はない。時計はもう12時を回っている。一体、いつになったらゴリラが生息する森に到達できるのか。不安は募る。その不安に拍車をかけるようにガイドがウィスキーを飲み始める。これから、野生動物と遭遇するかもしれないのにウィスキーを飲むガイドがいるのか。我々の不信を感じ取ったのか、このガイドはガイドの免許証を見せる。しかし、写真を撮ろうとしたら、「駄目駄目」と言って急いで隠してしまった。おそらく期限切れなのであろう。これはもう、ほとんど詐欺であり、我々は被害者であるなということにほぼ確信を持つ。とはいえ、もうこうなったら毒を食らわば皿までの気分になって、覚悟を決める。ただ、看板はあと20キロメートルでブウィンディ原生国立公園だ、などと書いてある。なんとなく納得はできないが、違う方角に行ってはいない。
 さて、しかし、20キロメートルぐらい走ると、確かにブウィンディ原生国立公園に着いた。すると、それまで段々畑だったところが、これを境として原生林になっていた。つまり、ここを国立公園に指定しなければ、ゴリラが生息している場所も段々畑にされてしまっていたということだ。開発意欲の凄まじさを知る。
 国立公園にはゲートがあるのだが、そこのゲート番と、我々を率いているグループとはどうも通じているらしく、なんか目配せをしつつゲートを開けてくれた。ゲートをくぐると、これまでの段々畑の風景とはまったく異なる森林が周囲を囲む。ようやくそれなりの雰囲気になってきた。とはいえ、それまで人里だったのだ。ゴリラが住む場所は、相当、離れているのではないかと思っていたが、ゲートを過ぎて15分間ぐらい走ったところで車は停まる。車が停まると、このなんちゃってガイドが、お金を要求してくる。ボスに一人600ドルを支払わなくてはならないので出せ、という。我々は5人分のお金を手元に持っていたが、ここですべて払ったらゴリラが見れないどころか、無事、ホテルに届けられることもないかもしれないと思い、「大金なのでホテルの部屋に置いてある。ホテルで支払う積もりだった」という。すると、それを聞いた運転手とガイドが相当、ムッとし始めた。皆、そんな訳はないだろう、と言う。そこで、何人かは払うようにして、全体の6割の1800ドルほど相手に渡す。これで、しかし、彼らとしては全額を回収しようとするとホテルまで行かなくてはならないし、ゴリラを見せなかったら残りを支払わないような交渉余地を我々としても残すことができた。

IMG_5718.jpg
(ゴリラが棲む森)

 車から降りて、森林をちょっと入ると男が待っていた。どうも、仲間らしい。ということで、ジミーというガイドとムハスという、待っていた男とで森に入っていく。森に入った直後に、ガイドに記念撮影をしようと提案すると、ゴリラを観た後にしてくれ、と拒まれる。私は何かあった時に、証拠写真として顔を撮影しようと考えていたので、この拒否で余計、疑いを深くする。というか、この時点でほぼ真っ黒だなと確信する。しかし、ここで文句を言ってもしょうがない。金を取るまでは、我々にも手出しもしないだろう。この時点では、ホテルに無事、帰れればといいと覚悟する。トレイルは比較的、歩きやすく平坦である。酔っ払っていてゴリラの群れをこの森の中で見つけることができるのだろうか。私は、このなんちゃってガイドが見つけられない時に、どんな言い訳をするのか。そちらの方にむしろ関心を移していた。ゴリラと出会えることはもはや、半分以上諦めていた。しかし、ある程度歩いて行った後、このジミーという酔っ払いガイドはゴリラの群れを見つけたらしく、トレイルから離れて藪の中を歩き始めていく。藪の中は、シダとイバラ。ゴリラ・ツアーに行く予定がなかった私は、ビジネス・シューズでこの森に入ってしまったので歩きにくいことこの上ない。トレイルは問題がなかったのだが、トレイルを離れると滑る、滑る。滑るのを止めるために、シダを掴むのだが、たまに間違ってイバラを掴んでしまう。その痛さといったら半端でない。思わず「痛い」と叫んでしまう。手から血が出ている。あまりの難儀に、引き返したいとも思うが、引き返すことも困難なので、仕方なく前に進んでいく。アル中ガイドは、しかし、どこに行くかは分かっているような足取りである。しばらく行くと、ガイドが立ち止まり、あそこにゴリラがいるという。ガイドが指さす方向をみると、確かに木の上に、黒いものが乗っかっている。そして、その黒い物体はゆらゆらと木を揺らしている。ゴリラだ!
 なんと、いい加減なガイドであったと見限っていたのだが、現実にゴリラと遭遇することができた。さらに、このゴリラのいる方に向かっていく。目撃したゴリラのすぐ下まで行くと、そこにはシルバーバックと呼ばれるゴリラのボス、そして雌ゴリラ、子供がいた。我々を目撃しても、まったく動じない。観光客に馴れているのかもしれない。ゴリラには7メートル以上近づいてはいけないというルールがあるのだが、7メートルって結構近い。目の前にいるという印象だ。ゴリラは我々の存在に気づいてはいるが、無視して、わらびを巨大にしたようなシダを食べている。シルバーバックは流石に凄い貫禄である。圧倒的な存在感に、攻撃してくるような兆しがまったくないにも関わらず、思わず、後ずさりしてしまいそうだ。子供のゴリラが可愛い。写真をばしばしと撮影してしまう。シャッター音にも特に反応はしないが、ちょっと人々に注目されていることの居心地が悪いのか、徐々に我々から遠ざかっていく。しかし、逃げるという感じではない。ゆっくりと距離を離していくという感じである。

IMG_5757.jpg

 ガイドが「ベイビー」と言って指さした方向をみると、赤ん坊のゴリラが木を登っている。そのぎこちなく、不安定に登っていく姿は、どうにも母性愛をくすぐる。私に母性愛があるかどうかは不明だが、何ともいえず可愛い。このベイビー・ゴリラは、木の上の方の葉を食べた後、また降り始めるのだが、途中で手を滑らせたのか、落っこちてしまった。ガイドは、このベイビーがいる方向に我々を誘導していく。さて、すると、そこにはベイビーと母親ゴリラがいた。ベイビーは、ちょっとした好奇心を持って我々を逆に観察しているようだ。しかし、たいして興味を持っていない。興味はもっぱら食事だ。食事をしながらテレビを観るような感じで、我々の方をときたま観るような感じだ。

IMG_5750.jpg
(貫禄のシルバーバック)

 この森はゴリラのものだ。我々はお邪魔させていただいている、という気分になり、お行儀よくしなければという凛としたような気持ちにさせられる。ゴリラと時間を共有させていただく、という貴重な体験は、何か宗教的な厳かさえ感じられる。ここでは、ゴリラは単なる一ほ乳類ではなく、我々もその一要素にしか過ぎない生態系を象徴しているのだ。その生態系の絶対的な迫力に、その神々しさに、私は圧倒されてしまっている。

IMG_5761.jpg

IMG_5763.jpg

IMG_5764.jpg

IMG_5767.jpg

IMG_5767.jpg

IMG_5737.jpg

IMG_5769.jpg

 さて、もうゴリラとの時間もお腹一杯、十分に満足したので、帰路につく。この帰路がまたものすごい難路であった。道なき道、まさに言葉通りの茨の道を進む。いや、道ではなくて坂だ。急坂、しかも地面を踏むこともできず、シダの上を普通のビジネス・シューズで登っていく。つるつる滑り、それを支えようと手で草を握ると、その草がイバラだったりする。もう、疲労困憊でぼろぼろだ、と思ったら、ようやく行きにも通った道に出ることができた。ここからはもう楽ちんである。急に元気を回復して道路にまで戻る。さて、道路に出る直前になって、ムハスはここでお別れであるという怪しげなことを言う。チップをあげたければ、ここであげてくれ、と言う。我々の仲間は、ゴリラに出会えた感動と、このムハスは確かに我々が足を草に取られた時、随分と助けてくれたこともあり、結構、気前よくチップを渡す。このムハスは、我々と同じ車に乗らず、本当にここで別れる。しかし、記念撮影には応じてくれた。ただ、後で、この写真をみると、ほとんど二人のガイドは下を向いており、顔が分からないように撮影されていた。
 我々は道に出ようとすると、車が来るまで道に出ないでここで待て、と言われる。まあ、ここで確信したのは、我々が参加したゴリラ・ツアーは非合法のものだということだ。そして、少なくとも国立公園のゲートを管理している職員もグルであるということだ。場合によっては、こいつがボスかもしれない。そして、我々が支払う国立公園の管理代の600ドルは、国立公園に支払われずに、このグループに支払われるのだ。どうも気分はよくない。
 しかし、一方でこのウガンダ・ゴリラ・ツアーのおかげで、本来的には2泊3日かかると言われたツアーが日帰りでできてしまった。2泊3日だと、我々のタイトなスケジュールでは不可能であった。また、これはちょっと問題発言をしてしまうかもしれないが、ルワンダのゴリラ・ツアーはゴリラを保全するための費用として750ドルを請求される。これは、我々が、この非合法なゴリラ・ツアーに支払った600ドル+交通費一人60ドル+ガソリン代一人20ドル+ウガンダのビザ代50ドル+ルワンダのビザ代30ドルを合わせた760ドルとほぼ同額であるので、ゴリラを観るという点だけでは、ほぼ違いはない。すなわち、この非合法ゴリラ・ツアーが裏ビジネスとして成立する背景としては、ルワンダのゴリラ保全のための費用がべらぼうに高額であるということがある。もちろん、ルワンダのゴリラ・ツアーはしっかりとゴリラを保全するために使われ、ウガンダのゴリラ・ツアーは私腹を肥やすために使われるので、長期的にはウガンダのゴリラは絶滅してしまう可能性も高いので、ウガンダもルワンダのようなシステムをするか、もしくはルワンダのゴリラ・ツアーの費用を安くして、非合法ゴリラ・ツアーの旨味をなくすことが必要であろう。
 とはいえ、この日帰りという我々の要望に対応してくれたことで、我々がゴリラを観ることができたという事実もある。ちょっと複雑な気持ちである。
 さて、車は行きとは違い、猛スピードでキガリに向かう。キガリに着いたのは21時頃であった。約束通り、残りの1200ドルとガソリン代、交通費を支払うと、我々にこの話を持ってきた運転手は、破顔一笑となり、とても嬉しそうであった。私は、朝にはもうこのホテルにも戻ってくれないぐらいの覚悟もしていたので、おそらく「犯罪人」ではあるが、お互い、うまくビジネスが成立したのでちょっとほっとした。彼らとは二度と関わりたくないが、野生のゴリラを観られたことは、個人的には素晴らしい体験であった。
 
IMG_5775.jpg

IMG_5809.jpg

IMG_5803.jpg

IMG_5790.jpg

IMG_5787.jpg
nice!(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0