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なみだふるはな [書評]

藤原新也と石牟礼道子との、2011年6月13日から15日にかけて行われた対談本。非人間的な企業管理と運営の果てに破局をもたらし、地域、そして普通の人々の生活と命が危機に晒されているという点で、2011年のフクシマと1950年代の水俣が共振する。フクシマの事故は水俣の悲劇の歩みから照射すると、それは偶然、起きた不幸な出来事ではなく必然であったことが理解できる。文学的にこれらの事故を捉えることで、この二つの事故の本質的な非人間性、破滅への連なりが浮き彫りになっていく。しかし、最後に、この文学的な視座であるからこそ、未来への微かな希望が点っていることも確認できる。
「たとえ明日世界が滅びようと、
 わたしは今日
 林檎の木を植える」
このルターの言葉が身に滲みる対談であり、フクシマの事故を捉えるうえで多くの貴重な視座を与えてくれる。悲劇、そして絶望に人が囚われる時、文学的な視点、芸術的な感性が人間を救ってくれることが、二人の対談を通じて改めて知ることができる。中年男性である私は、本書を読んで涙を流すことはなかったが、心は嗚咽を漏らしていた。それは、フクシマの事故の絶望をどのように表現したらいいかが分からなかった者が、この本書から与えられた声であると思う。


なみだふるはな

なみだふるはな

  • 作者: 石牟礼 道子
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2012/03/08
  • メディア: 単行本


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