SSブログ

ユーカリが丘を訪れる [都市デザイン]

 ユーカリが丘を訪れる。ユーカリが丘の総開発面積は245ヘクタール。東京ドーム54個分、多摩ニュータウンのほぼ12分の1の規模のニュータウンである。総計画人口は3万人。現在というか2011年末で人口は1万6千人ということで、50%ちょっとの完成といった、未だ計画途上のニュータウンである。なんでもテレビ番組の『カンブリア宮殿』の司会をする村上龍が「ユーカリが丘は、地域社会のモデルとなり得る奇跡の街だ」と言ったらしい。「地域社会のモデル」とはなり得るかもしれないが、民間の開発コミュニティが「奇跡の街」になるとしたら、そりゃディズニー開発のセレブレーションの方が上でしょうし、セレブレーションが「奇跡の街」というのはあまりにも悲しすぎるし、社会学的には正しくない。まあ、これは相変わらずのいい加減な発言であろう。とはいえ、気になったので視察に行ったのである。
 ユーカリが丘は京成電鉄で行く。ユーカリが丘の存在を知ったのはずっと前である。私は子供の頃から、地図が好きでたまらなかった地図フェチであったのだが、その私が、千葉県の京成成田線のある駅にある時、変なループ上の鉄道が建設されたことに気づいたのである。この変な駅から投げられた輪投げのような形をしたこの鉄道が、ユーカリが丘というニュータウンのアクセスのために整備されたこともすぐ知ったのだが、なかなか来る機会がなかった。そういう意味で、今回は待望のユーカリが丘訪問でもあったのである。
 このユーカリが丘は、1971年にデベロッパーの山万が開発を始める。山万は「やままん」と読む。1951年に大阪で繊維卸屋として創業。その後、宅地開発事業を東京周辺で手がけることになり、ユーカリが丘の前に横須賀で「湘南ハイランド」を開発している。その次のプロジェクトがこのユーカリが丘であった。1979年にはユーカリが丘は分譲を開始する。1982年には新交通システムを整備し、1990年以降もホテル、マイカル・ワーナーのシネコンなどを建設、さらには福祉施設、保育園、セキュリティといったソフト事業なども展開しており、まさに、ビッグ・ブラザー的な生活というよりかは人生サービスを提供している。このような状況に、薄ら寒い危機感を覚えずに、「奇跡の街」と手放しで喜べる作家とは一体、どんな想像力かとも思う。というか、こういうことに関しての村上龍の感受性は結構、高いと思っていたのだが、おかしいな。
 まあ、それはともかくユーカリが丘の駅を降りると、いきなり駅にホテルが立地していたので驚いた。一体全体、誰がこのホテルを利用するのであろうか。通常、こういうニュータウンのホテルを利用する人は、このニュータウンに立地する企業に用事がある人だったりするのだが、このユーカリが丘には、そのような企業が周辺には見当たらない。とても気になる。

IMG_1593.jpg
(駅前には山万が整備した新交通システムの乗り場があった)

 駅からショッピング・モールにはペデストリアン・デッキで繋がっている。また、駅からはすぐ、新交通システムに乗り継げるようになっている。鉄道を整備し、その利用者を増やすため、または開発便益を内部化するために、鉄道事業者が駅周辺の不動産を開発して利益を出すという事例は東急田園都市線や阪急宝塚線など枚挙に暇はないが、ここの事例は、不動産会社がニュータウンの住民の利便性を確保するために整備をしているという極めて興味深い事例である。
 この新交通システムにはとてつもなく関心があるが、お腹が空いていたこともあり、とりあえず食べログで評価が相対的に高いラーメン屋を訪れることにする。このラーメン屋はニュータウン内ではなく、駅前を走る国道沿いにある。さて、しばらく歩いて行くと、そのラーメン屋があったが、ラーメン屋は道の向こう側であった。そのため、渡らなくてはならないのだが、片道一車線の二車線道路であるにも関わらず、車がひっきりなしに走ってくるため渡ることはできない。なんなんだ、これはと憤慨する。ようやく命がけで渡ったら、ラーメン屋は閉まっていた。特に定休日でもなく、営業時間内でもあったのだが、何か事情があったのであろうか。それはともかく、また、あの国道を渡らなくてはならないと思うとゾッとした。どうにか渡ることができたが、このような道路は子供や高齢者にはとても渡らすことはできないと思う。本当に、自動車が普及したことで、都市と地方の豊かさはより格差が生じたと思う。地方は、自動車の普及によって、豊かさが大きく減衰しているのである。
 さて、相変わらずお腹は空いている。しかし、食べログをさらに調べる気はおきず、目の前にあったモスバーガーに入ることとする。モスバーガーは結構、混んでいた。
 モスバーガーからユーカリが丘方面へと歩いて行く。途中、突然というか忽然と街が綺麗になる。というか、区画整理される。コルビジェ風にいうと「ロバの道」から「人間の道」のように空間が変化する。この変化は劇的だ。そして、街並みは綺麗だ。決して、趣味がよくはない意匠ではあるが、綺麗に整理されており、ある意味で景観的な統一性、ハーモニーが感じられる。そして、ここまで統一されているところは、意外と多くありそうでそれほどないような気がする。神奈川の港南台といった印象である。そして、さらにまっすぐ行くと、比較的広幅員の道路に出て、その道路の上を新交通システムが走っている。この新交通システムには是非とも乗らなくては、と駅まで向かう。料金は200円。ちょっと階段がきつい。バリアフリーではない。この新交通システムの駅は、公園、女子大、中学校・・・と恐ろしくストレートなネーミングがされている。公園を過ぎると、左手には水田が広がる。まさに、この地域の原風景ともいえる景観であり、これが保存されている限り、このニュータウンは大丈夫であろうと直感的に感じる。ニュータウンの多くは、その土地を刷新して白紙のような状態で設計される。これは、何もニュータウンだけでなく、最近では世田谷区でもそのような状況にあると思われる。そこには、その土地のアイデンティティ、センス・オブ・プレイスはほとんど感じられない。しかし、このユーカリが丘は、この水田を残すことで、その土地の記憶、そしてアイデンティティを維持させることに成功している。そして、これが残っていることで、ユーカリが丘は100%郊外化されない。これは、ここがこの土地のセンス・オブ・プレイスを継承していく聖地として位置づけられるからである。このような土地が維持されないと、そこからはセンス・オブ・プレイスが消失し、のっぺりしたファスト風土になるのである。私が違和感を覚えるのは、このような郊外住宅地であり、青葉台などにそのようなものを感じてしまう。この水田を残したことが意図的なものか、偶然かは分からないが、どちらにしても、この試みは素晴らしいし、長期的にはこの土地の価値を維持していくことに大きく寄与するであろう。

IMG_1671.jpg
(何を意図して、この水田を残したのか。いや、今後の開発予定地なのかもしれないが、少なくとも、現状では素晴らしいアセットとなっている)

 ユーカリが丘はそもそも開発当初から全域に建築協定を設定した。この協定によって、住宅の間にブロック塀を設置することを制限したり、植栽による緑化を義務づけ、さらには一定面積以下の宅地分割の規制も行ってきたりした。まあ、このような建築協定による住環境の維持がいかに有効であるかを、このユーカリが丘でも確認させられた訳である。
 ユーカリが丘の大きな特徴は、都市計画の策定から都市機能の整備、そしてさらに運営までもが民間会社主導で行われているということである。このニュータウンに走っている新交通システムまでもが、この民間会社、山万によって計画、整備、運営されているのだ。
 さらには、ユーカリが丘では毎年の分譲件数を一定に定めている。まるで、アメリカのボルダー市やペタルーマ市のような成長管理政策が施されている。これは、同じ世代を一挙に同居させると現在のニュータウンが直面しているような高齢化の課題が深刻になるため、そのリスクを回避することにも繋がるが、むしろ、開発をゆっくりと長期的に展開させていこうという戦略性を私は感じたりする。どちらにしろ、このユーカリが丘、なんか、とてつもないところなのである。
 ニュータウンが本質的に好きではない私であるからして、このユーカリが丘に対しても全面的に肯定的な気持ちにはならなかったのだが、最近、訪れた青葉台に比べれば遙かにましであるとの印象を受けた。おそらく、世間的には青葉台の方が高級住宅地であるのだろうが、実質的な住宅地の価値としては、このユーカリが丘の方が上であると思われる。ただ、東急田園都市というブランドの高さを、京成電鉄というブランドの低さというハンディを抱えてまで、このユーカリが丘が上回れるかというと、ちょっと心許ない。とはいえ、住宅地という点だけ見れば、青葉台よりユーカリが丘の方が優れてはいるとは思われる。ただし、民主主義的であるか、というと大きな疑問が生じ、その立ち位置はディズニーが開発したセレブレーションと同じであるとは思われる。
 とはいえ、日本はアメリカと比べても民主主義は発達していない状況にあるから、この点をそんなに神経質に考える必要もないかなとも思う。

IMG_1648.jpg
(野原の中に高層マンションが建っている。ちょっとシュールな光景だ)

IMG_1675.jpg
(新交通システムから住宅地を望む)

IMG_1655.jpg
(しかし、どうして、これだけ土地があっても、隣の棟との間隔をこんなに狭くするのであろうか)

IMG_1642.jpg
(そして、どうして電線を地中化できなかったのであろうか?。これをするだけで、住宅地のグレードは一挙に上がるのにもったいないことをしたと他人事ながら残念に思う)
nice!(1) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 1