SSブログ

チバリーヒルズを視察する [都市デザイン]

今日は、久しぶりに早く起きたのと天気がよく、また締め切りもないので、これまでずっと行こうと思って行けなかったチバリーヒルズことハンドレッド・ヒルズを訪れることにした。東京駅までバスで行き、そこから京葉線に乗って蘇我まで行き、そこからさらに外房線に乗り継いで土気駅まで行く。乗り継ぎが絶妙だったので東京駅から1時間ぐらいで着くことができた。私は祖母が九十九里浜に別荘を持っていたこともあって、小学生の時は、よくこの外房線に乗って別荘に行っていた。当時は両国発のディーゼル特急で大網まで行っていたので、ここらへんの車窓は今でも記憶に残っているのだが、その当時の光景はほとんど抹消されている。土気駅は、本当、寂しくなるような雰囲気であったのに、今では堂々とした郊外住宅地の風情である。駅を降りると、バス・ターミナルがあり、その先にはどーんとショッピング・モールがつくられている。天気のせいもあるかもしれないが、なかなか牧歌的である。同じ東急が手かげた本家田園都市線沿線の青葉台などより、より計画された感のする郊外住宅地であった。

さて、目的地のチバリーヒルズへは歩いて行く。地図を見ると、結構、遠い。余裕で20分はかかりそうだが、とことこと歩いて行く。随分と歩いた後、公園に出る。この公園の先を行けば、チバリーヒルズかなと思ってまっすぐ行ったら柵に行く手を阻まれた。なんだ、この柵は。と不愉快に思いつつ、その柵をまわっていると、この柵こそがチバリーヒルズを周囲から隔離するためのものであることを知る。というのは、アメリカのゲーテッド・コミュニティや、フィリピンのマニラの高級住宅地にあるような有料道路の料金ゲートのような入り口が出現したからである。こんな仰々しいものがあることは知らなかったので面食らったのと同時に、チバリーヒルズ、本気なんじゃん、と感心もした。ここまでする必要性は治安面ではまったくないだろうが、この金持ち感を演出するうえでは効果はあるのだろう。このゲートには「外部者の見学のための訪問を禁止します」という文言と、「写真撮影禁止します」という文言が書かれている。両方当てはまるじゃん、と不愉快な思いをするが、まあ、ここまで言われればしょうがないか、とこのゲートから入ることは諦め、周辺をくるくる歩くことにした。周辺は柵が張り巡らされているのと同時に植栽もされているので、内側の様子はなかなかうかがえない。ただし、なかなかの豪邸だらけであることはなんとなく分かる。しかし、周囲は高層の集合住宅が建っていたり、また、掘っ立て小屋のような外見のディスカウント・ショップなどが立地していたりして、超高級住宅地としての雰囲気は台無しである。ここらへんの土地利用をある程度、管理しないと、これだけの超高級住宅地をつくっても、周辺の地価には反映されないのでもったいないよな、と思ったりもする。

などと思っていると、この住宅地に入れる歩道があることを知る。え!なんだ入れるじゃない。流石、日本。アメリカのゲーテッド・コミュニティのように徹底した管理がされていない。そりゃ、ここの住民にとっても入り口が一つであることは不便この上ないだろうから、こういう出口が幾つかあることは、彼らの便益を考えれば当然かもしれないが、ここらへんの本音と建て前的な使い分けに、思わず笑いもこぼれてしまう。ということで中に入った。住宅はすこぶる豪邸ばかりであり、前庭は芝生。また電線などもなく、また面白いほど洋風であるため、まるでロスアンジェルスの郊外の高級住宅地に迷い込んだかのようであった。ベバリーヒルズとまでは行かないが、サンマリノくらいの高級住宅地観はある。そして、前庭を掃除するユニフォームを着た人達が何人か仕事に精を出していた。この人達は、当然、ここの管理会社の従業員達であろう。面白いことに、この人達を除くと、この住宅街に住んでいる人達をほとんど見かけなかった。住んでいないとは言えないが、ゆとりをもってつくられた道路や歩道にはほとんど人がいないのである。まあ、これだけ家がでかければ、公共空間を利用したりする必要もないのだろうが。しかし、それにしても、どんな人達がここに住んでいるのだろうか。俄然、興味が湧く。

インターネットで調べてみると、ワンハンドレッド・ヒルズの分譲開始は1989年。ちょうどバブルのピークの頃である。東急不動産が開発・分譲した。当時の一戸あたりの分譲価格は5億円から15億円だったそうだ。現在、売りに出ている物件は、土地だけだが1664平米(約500坪)で8500万円なので、相当安くなっているのではないだろうか。

どうもこのチバリーヒルズことワンハンドレッド・ヒルズは、「バブル経済の負の遺産の象徴」とか「何もかも人工的な自然がヤラセのようで、公園や歩道、コミュニティーデザインは気味悪い。その仕掛けに住民が従って、人が集まるコミュニティーができているならともかく、人っ子一人いないような場所も多くみられ、人工的な自然の廃墟化には酷いものがある」(朝日新聞2000年4月14日)などと酷評されていて、私もおそらく、憤慨するような気分になるのかな、と自分でも期待していたのだが、その感想は「いや、よくぞ、ここまで徹底してやった。天晴れ!」といったものであった。このワンハンドレッド・ヒルズは、テーマパークとしてみれば、相当、コンセプトに忠実に住宅づくりをしている。確かに、この土地のアイデンティティやセンス・オブ・プレイスを徹底的に無視しているが、同じことは青葉台でも豊洲でも、大崎でもやっている。いや、むしろ、東京のスカイラインをずたずたにしている超高層マンションの方が、よほど人工的で東京の都市空間に対してマイナスの影響を与えているであろう。「人工的な自然」とかいうけれど、イングリッシュ・ガーデンだって人工的な自然である。そういう意味では、この住宅地は、クオリティは高い。よく考えれば、サンマリノの高級住宅地だって、無理矢理、水を何百キロと運ぶことによって初めてつくりあげた自然環境だし、このワンハンドレッド・ヒルズを批判するのは、ちょっと神経質すぎるでしょう。私は、自分がこのワンハンドレッド・ヒルズを思い切り批判することを期待していたのだが、ここまで徹底してコンセプトに拘った住宅開発をしてきた東急不動産を見直すと同時に、別に「バブル経済の負の遺産」というものでもないじゃないか、と思ったりもした。私はむしろ、田園都市線沿線の国道246号の車窓に展開する醜い郊外景観の方がはるかに「バブル経済の負の遺産」と思ったりもする。

IMG_0698.jpg
(突如現れるゲート。アメリカのゲイテッド・コミュニティそのものだ)

IMG_0723.jpg
(ゲートがないところからも出入りができるところが、日本らしい)

IMG_0707.jpg
(見学するな!のサイン。しかし、そうは言われてもなあ)

IMG_0713.jpg
(前庭芝生。これはアメリカの住宅地のお決まりだが、本家アメリカでも生態系を配慮していないと批判されている)

IMG_0704.jpg
(周囲からは緑の壁で遮断されている)

IMG_0712.jpg
(なかなかの豪邸で圧巻だ)

IMG_0705.jpg
(とはいえ、目の前にはチープ感溢れるディスカウント・ショップ)

IMG_0653.jpg
(駅前はまたテーマパークのようなショッピング・モールがつくられていた)

さて、しかし、このワンハンドレッド・ヒルズに関して気になるのは、あまりにも東京から遠いことである。これだけ駅から離れているのであれば、当然、移動手段は車であるし、まあ、これだけの住宅を買うお金があれば、電車のような庶民的なものは使う気もおきないであろうが、それにしても東京は遠い。千葉の郊外住宅地として位置づければ、そんなに遠くはないし、横浜に対する鵠沼ぐらいの距離だと思うのだが、横浜だとしっくりくるのに千葉だとしっくりこない。千葉でなんでこんな高級住宅地が必要なのか、その根源的需要が見えてこないからだ。加えて、周囲のチープな庶民的な環境が、ここをまったくもって浮かせてしまっていて、存在そのものを冗談のようにさせている。出来れば、周辺の住宅も、このワンハンドレッド・ヒルズの威光によって高級住宅地化させられればよかった。そうすれば、それなりにこの地区の個性みたいなものをつくりあげることが出来たかもしれない。あまりにも、この土気という町がチープなのである。これは鵠沼との徹底的な差であろう。せっかくの起爆剤としてのポテンシャルを活かせなかったのは、デベロッパー的にはミスだったのではないだろうか。まあ、しかし所詮、名前が「土気」だからなあ。この地霊は、ここをワンハンドレッド・ヒルズというお洒落な住宅街にすることを、永遠に出来ないようにさせているような気がするのは私だけではないだろう。この周辺で昼食を取ろうと食べログをチェックしたら、駅から1キロメートルぐらいの範囲でも最高点が3.25ぐらいである。町の公共的な資産が貧相過ぎるのである。せっかく、こんな超高級住宅地があるのに、この住民達にサービスを提供して稼ごうとする企業家も惹きつけることができないのだろうか。

まあ、しかしこのワンハンドレッド・ヒルズは個人的には非常に面白かった。もっとオープンにして、周辺の街環境をよくするようにしてもらえれば、街だけでなく、ワンハンドレッド・ヒルズも住みやすくなり、街も豊かになるんじゃないかな、と思いながら帰路につく。

nice!(2) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 2