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『都市美』 [書評]

 都市の美しさに公共性はあるのか。2004年に景観法は成立したが、その運用をめぐっては、様々な議論がなされている。そのうちの一つとして、果たして景観という都市の美しさを具体化させることに意義があるのか、という疑問が挙げられる。実際、私も1月24日に「景観まちづくり」の講演を依頼されているが、そのなかで、「景観まちづくりが経済効果をもたらすことも指摘してもらいたい」と要請されている。景観まちづくりは、公共性というその都市の共有する豊かさを向上させることであるのだが、この公共性にそもそも価値があるかということから議論しないといけない。公共性も経済効果という数字で説明されないとまだ納得できない人が多いのが日本の状況である。
 さて、本書は東大の西村幸夫先生とその門下生+周辺の人々、によって書かれた日本を含む景観先進国の景観行政に関する歩みである。まず、多少温度差はあるもののどの論文も深く掘り下げられた研究に基づいており、大変読み応えがある。こういう本の類であると、何編かはいい加減にまとめられたものも含まれているのが一般的であるが、本書は違う。凄まじいクオリティの高さであり、これは西村先生の厳しさに因るのではないかと勝手に思ったりもした。
 本書を読むと、ヨーロッパの都市で景観が優れているのは、それなりに規制など格闘してきたためであり、文化的や民族的なものではないことが理解できる。景観に対しての議論が数百年と続いてきた、その成果としての都市の美しさであり、日本の都市の景観が醜悪になっているのは、この論議を放っておいたからであろう。というのも間違いで、本書では戦前には日本でも美しい都市、美しい都市景観を保存しようとした動きが盛んであったことも紹介されている。何が問題であるのかというと、戦後の経済優先的な考え方の普及であったことが伺われる。経済成長がそれほど精神的な豊かさをもたらさなかったことは明らかであろう。その一方で公共的な豊かさは、劣化している。都市の美しさという公共性を高めていくことが、今後の日本において必要であることが本書を読むと理解できる。

都市美―都市景観施策の源流とその展開

都市美―都市景観施策の源流とその展開

  • 作者: 西村 幸夫
  • 出版社/メーカー: 学芸出版社
  • 発売日: 2005/05
  • メディア: 単行本



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