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『空間要素』 [書評]

日本建築学会の世界の空間事例本の『空間体験』、『空間演出』に続く第三弾目。『空間体験』、『空間演出』ともに大変好きな本であり、『空間要素』も楽しめた。土肥博至先生を始めとした日本を代表する都市デザイン研究者の空間の解釈はいつも参考になる。この本のいいところは、テキストや写真が綺麗なだけでなく、頁自体のデザインが優れているところである。こういう本は電子書籍ではなく、是非とも手元に置いておきたいと思う。さて、ただし内容的にまったく同感した訳でもない。

この本は12の空間要素から、参考になる事例を紹介しているのだが、「都市の装置」という空間要素の「安らぐ・憩う」の事例としてキャナル・シティ博多を挙げているのである。キャナル・シティ博多のような民間主導の商業施設が「安らぐ・憩う」という事例として挙げられるほど、日本の公共空間は駄目なのであろうか。いや、「安らぐ・憩う」という市場経済が供給できない公共的な価値は行政が人々に提供するよう努めている範囲であり、キャナル・シティ博多より遙かに「安らげ」、「憩える」空間は多いはずである。それにしても商業施設で「安らぐ・憩う」という解釈からして、まったく何をもって人が「安らぎ」、「憩う」のかも理解できていないのではないか。ちなみにこの稿を担当した廣野勝利という研究者は、「安らぐ・憩う」という例として新宿アイランドのパブリック・アートを挙げている。パブリック・アートの効用はいろいろとあると思われるが、それで「安らいで」、「憩える」とは私はあまり思えない。それは、ランドマークとしての目印となったり、人々の想像力を刺激し、舞台としての都市空間を演出するものであるかもしれないが、「安らげる」ものではないだろう。まったくもって「安らぐ・憩う」ということが理解できていないのではないかと思われる。

本書はこのような欠点もあるが、しかし総じて美しい写真と興味深い解説で、世界中の都市空間が紹介されており楽しい。繰り返すが電子書籍ではなく、手元に一冊置いておきたい本である。

空間要素―世界の建築・都市デザイン

空間要素―世界の建築・都市デザイン

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 井上書院
  • 発売日: 2003/07
  • メディア: 単行本



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