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椎名林檎の『三文ゴシップ』は最盛期を過ぎた横綱の(横綱)相撲のようだ [ロック音楽]

椎名林檎の『三文ゴシップ』を遂に聞く。CDはとうに購入していた。なぜか聴くのが怖かったのである。それは失望したらどうしよう、というファンとしては情けない気持ちと、聴いて興奮したら日々の生活に支障をきたすな、とこれまたファンとしては情けない気持ちを抱いてしまったからである。しかし、ちょっと私生活的に面白くないことがあり、また久しぶりにレンタカーをして車に乗っていたので思い切って聴いた。一曲目はいきなり男性のボーカル。椎名林檎の声を期待しているものにとっては、キャバクラに行ったら、ホステスでいきなり男が出てくるようなショックを受ける(とはいえ、私は大学教員になってからは一度もキャバクラに行っていないので、どういうものかはそれほど知っている訳ではない)。CDを入れ間違えたか、と思ったら、ようやく椎名林檎が歌って、怒濤のようにホッとする。さて、曲はめちゃ明るくて、めちゃ激しくて、ファンキーである。とはいえ、曲のレベルは高く、やはり東京事変よりずっと優れていると安心する。東京事変のメンバーは決して嫌いではないが、天才楽曲家である椎名林檎とは格段の違いがあることを改めて知る。二曲目の「労働者」もいい。静かにイントロは入っていき、バッと激しくなっていく。ちょっとジャクソン5的なモータウンっぽい曲を彷彿とさせる。椎名林檎、なんか楽しそうである。三曲目の「密偵物語」。三曲、連続同じようなハイテンポのジャジーな曲が続く。さて、それまでグッと引き込まれていたのだがこの曲でちょっと挫かれる。疲れも出てくる。この曲はあまり好きではない。3枚までのソロ・アルバムではなかったレベルの曲だ。東京事変ではそういう曲はあったが、椎名林檎のアルバムでは初めての経験かもしれない。その一つの原因は、英語の歌詞だからだと思う。改めて、椎名林檎の曲における歌詞の重要性を認識する。四曲目の「○地点から」。この曲で初めてドラマーが楽そうなミディアム・テンポとなる。五曲目の「カリソメ乙女」。激しいドラム・ソロから入り、ホーン・セクションもど派手、サックス・ソロも激流のごとき勢い。ただし、やはりこの曲は、昔出ていましたという感じがどうしてもしてしまい、どうもこのアルバムの流れからは浮いている感じがする。何で今頃また出てくるのといった感じである。全体のトーンと合っていないかな、と思うのは私だけだろうか。この曲はシングルのままでいた方がよかったかもしれない。6曲目の「都合のいい身体」。この曲は凄い!60年代のハリウッド映画もしくはアメリカのテレビドラマの主題歌の音楽のような曲であり、もうこれでもかというぐらい全開という感じで、アレンジも絶妙だ。今まで、こんなタイプの曲をつくれた日本人っていたかなと思わせる。あまりにも器用で驚く。7曲目の「旬」。この曲は椎名林檎のバラード歌謡曲という感じで相当いい。こういう曲が特別な輝きを持つのは、コードがストレートでないことと歌詞が秀逸だからであろう。「ありあまる富」や「落日」などに通じる。なかなか泣かせる。それにしても彼女はテンション・コードを使うのが美味い。ピアノのソロもジャジーでいい。この曲はあとあと嵌っていくかもしれない。8曲目の「二人ぼっち時間」は、キューピー・マヨネーズのコマーシャル・ソングのような明るいタイプの曲。曲調を展開する部分などは流石であるが、そんな傑作ではない。もちろん駄作とは言えないのだが、ちょっと今ひとつかな。9曲目の「マヤカシ優男」は、イントロがスティーリー・ダンかと思ったら、ブラジリアンだった。また、私が苦手な英語だ。もったいないよなあ、と思う。楽曲だけだったらブラジルでも受けそうな感じだが、こういう曲は椎名林檎で聴かなくてもいいかなとは思う。アンテナとかバーシアを彷彿させる感じもするが、林檎が英語で歌うと、同じように英語が外国語のこの二人にも劣ってしまうような気がしてしまう。悔しいけど。10曲目の「尖った手口」とかは、10年前に戻ったかのようなディストーションがかかりまくったギター・ソロから入る。この曲はちょっと東京事変を彷彿させる。11曲目の「色恋沙汰」は、ボサノバ調というか、ブラジル風。確か、ブラジルの飛行機会社のコマーシャル・ソングでボサノバの名曲があったと思うが、そんな感じである。嫌いではないし、メロディー・ラインは秀逸ではあると思う。しかし、私が求めている椎名林檎とは違うような気がする。12曲目の「凡才肌」はシャンソン調。エディット・ピアフが入ったかのような歌い方は感心するが、ううむ、評価は難しいところだ。13曲目の「余興」はアメリカン・ハードロックという感じで、これは文句なしの格好良い名曲である。なんでこんな曲がつくれるんだと感心する。本当、凄いよな、椎名林檎。14曲目は昨年秋のライブの最後にテープで流したアカペラ風の「丸の内サディスティック」。全曲を聴いて、しかし、最も涙腺を刺激するような佳曲はこの曲だ、ということに気づき、ちょっとショックを受ける。
 さて、全般的には流石、椎名林檎。クオリティはめちゃくちゃ高いわ、と思いつつ、どうも曲調が似たようなものであることが気になる。いや、曲調は違うのだが、色彩が似ているとでも言ったらいいのか。肌色の色彩か?椎名林檎は最初の二枚のCD(SMシリーズ)において、その驚愕の天賦の才を世に知らしめた訳であるが、この二枚とも、その緩急の取り混ぜ方が絶妙であり色彩豊かであった。もう野球の投手でいえば、七色の変化球の持ち主であり剛速球もあるよという感じで、その演歌からジャズ、カート・コベインから太田裕美まで網羅する奥深さにもう衝撃を受けたのであった。そのような過去の作品に比べると、『三文ゴシップ』はなぜか単調なイメージを受ける。いや、曲ごとのイメージは違うのであるが、なんか変化が乏しいという印象を受けるのである。この点はどうしてだろうか。このCDに先行して発売された「ありあまる富」と「旬」とを入れるという3番打者と6番打者に強打者を持ってくるようなラインナップにしてもよかったかなと思うが、このCDは「旬」にクライマックスを持ってきているので(曲目がシンメトリーになっていて、一字の旬が中央に位置づけられている)、どうも単調な印象を受けてしまうのかもしれない。「ありあまる富」が入っていれば裾野が広がってよかったのにと思わずにはいられない。最近は、「落日」といい傑作がシングルでしか発表されていないのは残念である。「落日」なんてB面だしね。ついでに言うと、「ありあまる富」の歌詞は素晴らしくよく癒される。こんな詩が書けるなんてやはり天才だ。
 とはいえ、東京事変のアルバムよりは遙かに楽しいし、曲のレベルが高くていいことは確かだ。ただ、三枚目を含めて以前のアルバムに比べると、もうこれを聴かないと駄目だ、みたいな麻薬的な魅力は減じたと思われる。楽曲は流石に椎名林檎だな、と思うが次世代にまで引き継がれるような名曲となるとどの曲も「丸の内サディスティック」には及ばないからである。「丸の内サディスティック」はシングル・カットされていないが、長らく歌い継がれる曲になると思われる。昔、アサヤンで小室哲哉が、21世紀に歌い継がれる曲みたいな企画をしていたが、そういうことを言った時点で、そんな曲がつくれる訳がない。それはいい曲をつくろうというよりかは、マーケティングに脳を支配された悲しい発想である。だから自分の存在理由でもある著作権を平気で他人に売るといった詐欺も思いついたのだろう。「セレブレーション」や「レボリューション」や「セルフ・コントロール」といった小室の曲を、みな忘れ去ってしまっても「丸の内サディスティック」や「ギブス」や「幸福論」は忘れずに歌い継がれるだろう。それはビートルズの「ヘイジュード」やサイモン・アンド・ガーファンクルの「明日に架ける橋」やディープ・パープルの「ハイウェイ・スター」なみの格があるからだ。まあ、それは言い過ぎか。しかし、レディオヘッドの「ベンド」くらいの格はあるだろう。それほど椎名林檎の初期の曲のレベルは高かった。そういう曲と同じようなレベルにある、まさに次代に引き継がれる曲がこのCDにあるかと言われるとちょっと厳しいかもしれない。一番可能性があるのは「旬」だろうか。とはいえ、東京事変よりは流石によくて横綱相撲ではあるなとは思う。個人的には「旬」と「余興」は相当、好みではある。まあ、何を書いているかよく分からなくてなってしまったが、とりあえず第一印象ということで人に読んでもらう文章にはなっていないが、アップさせていただきます。乱筆乱文ですいません。



三文ゴシップ

三文ゴシップ

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: EMIミュージックジャパン
  • 発売日: 2009/06/24
  • メディア: CD



ありあまる富

ありあまる富

  • アーティスト: 椎名林檎,野崎良太,いまみちともたか
  • 出版社/メーカー: EMIミュージックジャパン
  • 発売日: 2009/05/27
  • メディア: CD



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