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三島市を訪れて、「街中がせせらぎ事業」に感心する [都市デザイン]

 三島市を訪れる。道路が整備できなくて、かえって街の活力が失われないところを静岡県の都市計画関係者に尋ねたら、それは三島市だと数名から指摘されたからである。三島市は人口約11万の静岡の東端、伊豆半島と箱根と富士山という三大観光地に囲まれた都市である。三嶋退社の門前町、そして東海道の宿場として発展する。新幹線通勤ができることもあり、人口は1980年の94612人から2005年の112241人と着実に増えている。
 さて、この三島市であるが、第二次世界大戦の時、幸いに空襲に遭ってない。それで、例えばとなりの沼津市のように基盤整備が出来なかった。旧市街地にお寺や神社があり、それらが広い土地を持っている。そういう面で再開発などができず、都会的に発展できなかった。三島駅の南口では区画整理をしようとしたが、住民の説明でうまくいかなかった。そういうこともあり、大きな道路が整備できていない。中心市街地が碁盤の目でなっていなくて使いにくいという状況にあった。
 一方、三島市は市内各地で富士山の湧き水が見られ、せせらぎが市内で聞こえるような都市であった。しかし、地下水を使って水量が激減、川の汚染もひどくなってしまった。面白いことに、湧き水が出るスポットが中心市街地に多くある。中心市街地が碁盤の目ではないというのは、自動車にとっては不便であるが、歩行者にとっては歩きやすい。この歩きやすい環境を活かして、これら湧き水を再生させ、管理し、それらをめぐる散策路を整備すると街の活性化に繋がるのではないか、という考えのもと、三島市では1996年から「街中がせせらぎ事業」を展開することにした。
 そして、商工会議所、住民、NPOなどが協働して、三島駅を発着点とし、中心市街地にある水辺や緑、歴史・文化といった街の宝物のアメニティ資源をめぐるルートを策定した。そして行政が、このルートを回遊路として整備する事業を2001年から2005年にかけて実施した。ルート沿いは、舗装を変えるなどして、探検気分で歩けるような工夫がされている。また、自動車のスピードを落とさせるためにハンプ(ちょっとしたでこぼこ)を設けていたり、歩道の舗装を広めたりするなどの工夫が為されている。ここでは、自動車ではなくて歩行者の方が主人公である街づくりがされていることを知り、ちょっと驚く。
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(ハンプ)

 「せせらぎ」のルートの中に、ちょうどうまい具合にすっぽりと中心市街地が入る。三島市の商店街の店舗はバカ売れをするような店はないが、シャッター通りではない。これは、郊外にショッピング・センターをつくる土地がなかったというのが大きい。さらに、道が狭いということで、通りによって分散されないので商店街の空間密度が高い。加えて、自動車での交通の便がよくないので、住民は買い物を近くの商店街で済ましてしまう。そういうこともあり、商店街はそこそこ活気がある。そこに、「せせらぎ」のルートが整備されたことで観光客が三島の中心市街地を歩くようになったのだが、商店街に活気があるので、それ自体もアメニティになっていて観光客に喜ばれてもいる。
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(地方都市の商店街で歩行者を見かけるのはちょっと珍しい)

 特に観光客に人気があるのが鰻屋である。三島は鰻が捕れる訳でもなく、養殖をしている訳ではない。ただし、三島の綺麗な水で3日間ぐらい放っておくと、美味しくなると言われている。そういうこともあり、三島の中心市街地だけでも鰻屋が10軒くらいある。これは、同じように鰻で有名な浜松が、駅のそばにあまり鰻屋がないことと対照的である。讃岐うどんの名店が高松駅の近くにほとんどないことも同様であるが、自動車型の都市整備に力を入れた都市は、観光客が駅から歩いて地元の名産品を食べたいと思っても難しい場合が多い。しかし、ここ三島ではちょっと歩けば、何軒かから選択できるという嬉しい状況が待っているのである。
 「せせらぎ」の成功は、開発に乗り遅れたことが功を奏したのであろう、と三島市の職員は分析する。ショッピング・センターの開発手法がとれなかったことが、商店街が潤っている大きな要因であろうとも分析していた。隣の清水町は大ショッピング・センターがあって週末は大変混んでいるが、商店街は寂れているそうだ。
 現在、このルートを印刷した「せせらぎマップ」を三島市では年間10万部ほど印刷している。行政がつくっているパンフレットとしては異常ともいえる多さであろう。三島市はまた建物の高さ規制なども検討している。開発を優先せずに、人間の視点にたった、人間のための街づくりをしているからこそ、三島市の中心市街地の豊かさが維持できているのではないか、と考えられる。自動車の利便性を考えた碁盤状の都市ができなかったことで、多くの利点が得られているということを、道路整備が必要だと考えている人たちも再考するのに、極めて好例だと思われる。

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(水に背を向けた使い方がされていた中、このレストランのように水に顔を向けるような店も出てきている。これらが連続性をもてば、非常に魅力的な都市空間がつくりあげられるであろう。将来に大きな期待が持てる)

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