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岡本太郎の「明日の神話」は絶妙なる「都市の鍼治療」である [都市デザイン]

大学への通勤には京王井の頭線を使っている。渋谷経由だ。その渋谷駅に11月17日、巨大な壁画が現れた。京王井の頭線から山手線へ乗り換える時にいつも使っている通路においてである。この壁画は大阪万博の「太陽の塔」で知られる天才芸術家、岡本太郎の「明日の神話」だ。この縦5.5メートル、横30メートルの巨大壁画はどうやら恒久的にここに設置されるそうである。この絵は、随分と気持ち悪いというかゾッとさせるような気分にさせるな、と感じたのだが、そのモチーフは原爆炸裂の瞬間を描いたものだということを知って納得する。この芸術を極めて公共性の高い、駅という空間に設置したことは素晴らしい「都市の鍼治療」である。

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渋谷駅という公共性の高い空間に、この大壁画が設置されたことで、天才の芸術作品を多くの人が鑑賞することができるようになった。そして、この作品を鑑賞するという共有体験が、渋谷駅利用者のアイデンティティの共通の構成要素になるのである。そのような共通する構成要素は、都市への帰属意識を高め、また都市への愛着をも深める。そのような意識や愛着を共有する人達が増えていく都市は、いい都市になる。なぜなら、悪くしようとするとそのような人達は抵抗するからである。それは、渋谷駅利用者、そして東京都民が共有する公共財産である。そのような財産を多く持つ都市ほど魅力的である。そして、天才はそのような魅力を生み出せるからこそ天才であるのだ。ガウディが天才なのは、バルセロナという都市を特別な都市にしたからである。

この絵の設置場所としては、広島市、大阪市と張り合ったそうだが、渋谷駅のこの場所の公共性の高さは図抜けている。京王井の頭線利用者の恩恵が大きいかもしれないが、下の道路からも部分的には見ることができる。このような芸術を広く共有することができるというのが都市のメリットでもある。都市はまた多くの芸術家を育てる孵化器でもある。渋谷の周辺の青山にアトリエを構え、多くの芸術を産み出した岡本太郎の大壁画は、渋谷にあるからこそふさわしい。

この絵ができて3週間、ちょっとこの壁画の前を通ると誇らしい気持ちになる。このような素晴らしい公共空間を擁する東京人としての誇らしさと岡本太郎という芸術家と同じ日本人であるということの誇らしさである。それと同時に、原爆のことも毎日、考えてしまう。私の従兄弟は9歳で白血病でなくなった。父親が広島の原爆で被爆したことが原因なのではないか、と思われる。叔父はまだ健在であるが、娘の遺伝子には何か被爆した際に傷められた異常な情報が伝わってしまったのではないか。5歳で発病した。したがって、原爆は他人事とは思えない想いがある。その想いを毎日、掻き立てられるのは多少、辛いが、原爆そして戦争の悲惨さをしっかりと他国の人に伝える責任を日本人は有している、ということを確認させてくれる。インドとパキスタンが原爆競争をしていたり、田母神元航空幕僚長などがいい気になっていたりする現在においては尚更である。そういう気持ちにさせてくれるのは、この絵のおかげである。

この絵のおかげで、ちょっと通勤が刺激的になっている。絶妙な「都市の鍼治療」で、おかげで最近、機嫌がいい。そうそう、自動車に乗っていると、こういう都市体験ができない。駅のような優れた公共空間を共有することができないからである。自動車利用が多い都市が魅力的でない理由は、こういう点にもある。


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