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中沢新一『アースダイバー・東京の聖地』 [書評]

私は、中沢新一の思索が好きである。その中でも「アースダイバー」はとても刺激的で興味深く思っている。今回は、東京の聖地、という内容だが、昨今、都市開発的に話題となった築地市場と明治神宮の二つしか取り上げていない。そして、築地市場の方が明治神宮の二倍のページを割いている。

築地市場に関しては「仲買人」が作り出す価値をしっかりと認識しろ!という主張である。そして、その主張は極めて高い説得力を有している。私も、前からそう思っていたというところもあるが、中沢新一はその主張を膨大なる知識と情報から裏付ける。その迫力は凄まじい。

もう一方の明治神宮は内苑に関してはとても興味深く、なるほどと読ませてもらったが、外苑の方はそれほどしっくりとはこなかった。ただ、この本では建築家の伊東豊雄氏との対談があるのだが、伊東氏の建築家としての思考レベルの高さには圧倒された。彼の優れた思考を中沢氏はしっかりと対談で引き出すことに成功していると思う。

明治神宮の項を読み、改めて二回目の東京オリンピック開催は天下の愚策であったことを知る。そもそも、東京オリンピックを開催しようなどと考えるべきではなかったし、もし開催したのであれば都市開発が必要な地域、私は、それは国道16号線沿い(もしくは外郭環状道路沿い)だと思うのだが、そこに競技施設を立地すべきであったろう。リオデジャネイロはまさにそのように問題のある郊外部に競技施設を分散配置したが、そのリオデジャネイロよりも大都市である東京が「コンパクト」などというまったく訳の分からないコンセプトを打ち出し、その結果、貴重な外苑に競技場をつくるなどということになり、結果、迷走した。もちろん、その背景にはオリンピックのお金で国際競技場を作り直したい、といった思惑などもあったのだろうが、そういう細かい金銭的なことに振り回されてオリンピックをしてしまった結果、次代に残すようなものをまったくつくることができなかった。コロナということもあったが、バルセロナ以降、まったく都市を改変できなかったオリンピックは市民主体のアトランタと国家財政を破綻させるきっかけとなったアテネ以外では東京しかなかったことを我々は猛省すべきである。

そして、改めて明治神宮外苑の再開発はとんでもないことをしているな、ということを再確認する。そもそも、ここを再開発しようと東京都が考えるということ自体がおかしすぎる。都市においては、聖なる地が必要である。それは、金銭的な価値はもたらさないかもしれないが、人は金銭的な価値で生きている訳ではない。人間という生命体は金銭的なもの以外も多くを必要とし、日本人は見事な知恵で「自然の内蔵する地球的な知性」を都市の中に維持させることに成功した。その知性を破壊するような行為を民間ではなく、東京都という公共体が実施しようとするのは、これは亡国の愚策である。そういうことは前から思っていたが、本書はそういう考えを見事、テキスト化してくれている。



アースダイバー 東京の聖地

アースダイバー 東京の聖地

  • 作者: 中沢 新一
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/12/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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