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ハイルブロンを訪れ、なぜ人口12万6000人でトラムが新設できるかを考察してみる [サステイナブルな問題]

ハイルブロンはバーデン・ヴュルテンベルク州にある人口12万6000人の都市である。同州ではシュツットガルト、マンハイム、カールスルーエ、フライブルク、ハイデルベルグ、ウルムに次いで7番目の都市である。ネッカー川沿いに発展した都市であり、中世から交易都市として栄える。同地域の他よりも産業革命で先んじ、経済的に発展する。第二次世界大戦では旧市街地がほぼ完全に破壊され、1950年に再建する。
さて、そんなハイルブロンになぜ、訪れたかというと、この都市が2001年に中央駅から新たにトラムを新設したからである。このトラムは、カールスルーエ・モデルのトラム・トレイン・システムに組み込まれており、一部の列車は、そのままカールスルーエまでも運転される。ハイルブロンも1955年まではトラムが走っていたので、廃線してから46年後に復活させたということになる。驚きだ!さらに2005年、2013年とハイルブロンはトラム路線を延長させている。この延長は乗客数が想定よりも多かったということで計画されたとのことだが、人口12万6000人で、広域圏人口もほとんどない都市では、日本では考えられない快挙であるかと思われる。実際、中央駅からトラムで二駅ほどいった都心部の市役所前に行ったのだが、なんと、この市役所駅を挟んだ400メートルぐらいの区間がトランジット・モールになっており、自動車は通行できないようになっていた。その結果、都心部は結構、賑わいがあり、月曜日の午後で雨も降っていたにも関わらず、多くの人が集っていた。日本の都市で人口が12万クラスの都市で、この賑わいはちょっと驚きだ。もちろん、トラムが走っていて、トランジット・モールがあることはもっと驚きであるが。なんたって、日本は京都という150万都市の大観光都市でも、トランジット・モールはもちろん、トラムの復活もできないからだ。何なんだろうなあ、この違い。
大きくは三つ、日本ができない理由があると思われる。一つ目は、公共交通を採算事業であると捉えていること。ハイルブロンのデータは分からないが、これは大赤字事業である。そもそも、ドイツのトラムで黒字の都市は一つもない。バーデン・ヴュルテンベルク州最大のシュツットガルトであっても、赤字率は50%ぐらいだ。人口も遥かに少なく、ネットワークも比較にならないほどしょぼいハイルブロンでは、おそらくシュツットガルトよりも低いだろうから、日本では許されないレベルであろう。しかし、道路事業は超絶、ど赤字でも平気なのに公共交通事業だと急に採算性の話を持ってくる日本は、はっきりいって公共事業においての公共交通差別であり、まったく頓珍漢だ。両方ともモビリティを人々に提供する社会基盤であるにも関わらずだ。ちなみに、こんな発想を持ち出す国は日本以外だと、公共交通を共産主義だと思う一部の右翼思想の人がいるアメリカぐらいである(そのアメリカでも公共交通大好きのピート・ブティジェッジが運輸長官になっているので、状況は変わりつつある)。二つ目は、地方分権が徹底できないこと。これは連邦制のドイツと中央集権の日本との大きな制度上の違いであり、そのため地方自治体の裁量が日本はドイツに比して遥かに小さい。日本の方が人口もドイツの1.5倍はあるのに、そして、自治体の職員も優秀であるのに、中央集権の役人たちが勝手に全国一律のルールをつくってしまう。結果、その地域に応じた交通政策を策定できなくなってしまう。本当、道州制の導入を本気でそろそろ考えた方がいいかと思う。三つ目は、これは不思議なのだが、自動車への偏愛である。これに関しては、最近の若者はちょっと価値観が変わってきているかな、と思うが地方の若者は自動車なくしては生活あり得ない、と今でも言う。まあ、そのような考え方の人がほとんどだとトラムの導入はなかなか厳しいものがあるだろう。ただ、自動車は都心部の集積や賑わいをつくらない。その結果、地方都市と大都市との差はさらに大きくなって、自動車社会が嫌な人や、自動車に乗らなくてもいいような選択肢がある大都市へと移り住んでしまう。いや、自動車に固執するのはいいが「自動車捨てますか、地方捨てますか」という状況になっていることを自覚してもいいかと思う。なぜなら、今後、ガソリン代も高騰し、自動車という交通手段がそうそう長く生き残っていくとは思えないからだ。ドイツの脱自動車的な活動の熱情をみるにつけ、そう思う。
上記のように捉えると、一つ目は価値観の問題だから変えればいいだけだ。二つ目は制度の問題だからこれも変えればいいだけだ。意外と三つ目が一番のハードルかなと思ったりもするが、これもしっかりとその弊害を話すことで状況を突破できるかもしれない。私は人口12万ぐらいの都市でトラムのようなモビリティ手段が提供できていて、その結果、都心部に賑わいが日本の都市でももたらされることを望むものである。日本の都市はそもそも、とてもコンパクトであるし、その文化もとてもアーバニティと相性があるものなので、上手くやればとても魅力的な都市空間ができることを疑っていない。松本市や長野市、金沢市など、上手く既存のトラム的鉄道とJRとかと連携することで、その魅力は大きく向上されると思うのだが、どうだろうか?
ちなみにハイルブロンは、周辺に大都市もない地方都市であり、人口も2001年の120,163人から2011年は116,059人へと減少していたが、2021年には125,613人と人口は減少から増加へと転換している。もちろん、トラムの延長以外の要因もあるかとは思うが、社会基盤をしっかりと整備し、モビリティ、そして都心部の歩行アメニティが改善され、賑わいも生じれば、人々はその都市の将来に希望が持てるようになる。その都市の将来に希望が持てれば人はそれほどその都市から出ることはない。希望が持てないから、人は地方都市から大都市へと脱出するのだ。人口減少時代の地方都市に求められる政策は、未来への希望をしっかりと提示できることではないだろうか。赤字だからローカル線を廃線するような地域にどんな若者が未来を描けるというのであろうか。ハイルブロンの体験は、そういうことを我々に示唆していると思われる。

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【中央駅に隣接してつくられたトラムの停留所】

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【市役所前はトランジット・モールになっており、自動車の通行が禁止されている】

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【市役所前のトランジット・モールを走るトラム】

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