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京都市の人口減少解決策に異議 [都市デザイン]

1月17日の日本経済新聞に拙文が掲載されました。京都市の都市政策に関して疑義を呈した内容なのですが、ちょっと編集サイドで手が入り、それはそれで読者を想定すると有り難い修正なのですが、私の本音も皆様に伝えられたらと思いますので、オリジナルの原稿を下記、掲載します。

京都市が景観政策見直しを検討している。その理由は、京都に住んで働く人が減少することへの危機感であるそうだ。京都に住む人が減少している理由は、京都市によれば住宅価格が高騰しているからだという。人口が増加して住宅価格が高騰しているなら分かるが、人口が減少しているのにそれが高騰しているのは随分と奇妙な話である。しかし、京都市はそれは住宅供給が不足しているからだと判断し、住宅供給の弊害となっている建築物の高さ規制を緩和させようと考えている。
果たして、住宅供給を増やせば、人口減少は解消されるのであろうか。そもそも、京都市の住宅価格の高騰をもたらしているのは、最近の京都の凄まじい観光需要の増加を起因とした民泊需要の増加であると筆者は分析している。実際、観光客に人気の高い東山地区などの空き家の取引状況をみると、そのうちの大半が外国人による投資か、それを仲介する不動産業者であったりする。それらは外国人がそこで住むために投資しているのではなく、民泊として活用するために購入しているのである。したがって、住宅価格の高騰を抑えたいのであれば、それを押し上げている民泊を規制すべきである。住宅価格の高騰を緩和するために住宅供給を増やして効果があるのは、実際の住宅需要が不足している場合であって、不足しているのは住宅という名を隠れ蓑にした民泊という宿泊施設の場合は、規制緩和をしても、住宅需要は民泊需要にすべて喰われてしまうであろう。
 百歩譲って、宿泊施設を増やすということで都市計画規制を緩和するということで議論をするならまだ分かるが、人口減少を解消するためにそれを緩和することは、インフルエンザに外科手術を施すようなもので、効果がないどころかマイナスの影響を及ぼすであろう。そのような規制緩和は住宅ではなく、民泊を増やすことに繋がり、それはさらなる観光客を増やすことになる。現時点でもバスなどの公共交通が、増加した観光需要を捌ききれずパンクし、四条などの中心部では歩道から人が溢れるような状況下であるのに、さらに観光客を受け入れることは、京都市に大きな弊害をもたらすであろう。
そして、何よりそのような高さ規制や建築政策の見直しは、世界でも希有な「先年の都」という歴史を有する古都の根源的なアイデンティティを破壊する。いや、そのアイデンティティを破壊すれば確かに観光客も来なくなるかもしれないが、それによって京都という都市の魅力が失われ、より人口の減少を促進させるのではないだろうか。京都はそのユニークな歴史から、日本人だけでなく人類の宝となっている。それは、世界的にはプラハやフィレンツェ、ベネチアなどのような都市であり、そのアイデンティティをしっかりと次代に継承させていくのは日本人の人類への責務である。日本全体が人口減少というトレンドにある中、人口のいたずらな奪い合いへ参戦することは、長期にわたる禍根を京都に残すことになるだろう。千年とは言わないが、百年ぐらいの長期の物差しで京都のアイデンティティを守るという意識をもって都市政策を考えてもらうことを切に望みたい。

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