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西荻窪の飲み屋街を訪れる [B級グルメ雑感]

 マイク・モラスキーの「呑めば、都」を読んだら、どうしょうもなく西荻窪の飲み屋街に行きたくなったので、34歳になった卒業生を誘って訪れる。どうも「戎」は外せないようなので、早めに入ろうと考えて17時に西荻窪の駅の改札口で待ち合わせをする。「戎」は13時に開店する居酒屋で、まあ昼から酔っ払えるという機会を提供しているなかなか画期的なお店であると思う。以前、港区の麻布街づくりのパネル・ディスカッションのコーディネーターの仕事をしたことがあったが、パネリストのお一人が「あべちゃん」は15時から飲めるので素晴らしい!と述べられたが、西荻窪だと13時だ(ちなみに赤羽のまるます屋であれば朝から飲める)。それはともかく、17時に改札を出て直行したら、既にほぼ満席。これは入れないかと思われたが、二人という人数が幸いして、奥のテーブルに座ることができた。
 焼酎とグレープフルーツ・サワーを注文。あとはキャベツ、焼き鳥など。焼き鳥系は焦げていて、決して味がいい訳ではない。ただ、この雰囲気は相当、味があるというか個性的だ。モラスキーの本からだと、もっと赤提灯的な店内のイメージを抱いていたのだが、むしろ山小屋的な雰囲気のお店で、お洒落とも捉えることができるような印象だ。実際、お客さんも30代前後の女性が多くいた。ちょっと本の内容と違うな、と思って家に帰って読み直したら、モラスキーが語っていたのは本店といって、私が行った(支店)隣にある店であることが分かった。モラスキーも本店と支店では偉く客層が違う、と書いていたので、次回は本店に訪れようかと思う。とはいえ、食事を楽しむというよりかは雰囲気を楽しむお店のような気がする。というのも、食事は今ひとつであり、また肝心の日本酒の揃えはまったくよくないからだ。チューハイ、ハイボールを飲む店かなと思うし、それらのお酒が似合うような雰囲気であるとも思う。
 さて、「戎」だけ訪れて帰るのはあまりにも勿体ない。ということで、「戎」はそれほど食べずに、次の店を探す。第一希望は「しんぽ」であったが、流石に予約なしでは入れなかった。ということで、立ち食い寿司屋「一」に入る。というか、「一」に入れたのもちょっとラッキーだったかもしれない。「一」も「戎」と同じ通りに立地しており、「戎」と同じように通りに立ち飲み客用のテーブルを二卓置いていて、テーブル狭しと客は肩を寄せ合って、そこで呑んで食べている。ただ、食べているのがおでんとか焼き鳥とかではなくて寿司の握りというところが、ちょっと西荻窪というイメージである。この界隈の店はトイレがなく、共同便所を共有している。この共同便所は男女共有であり、男性はともかく女性にとってはちょっと厳しいかと思う。トイレはどこ、というと店の人はここを指示するが、駅にもトイレがあり女性客はそちらを利用した方がいいかと思う。このお寿司屋で驚くのは、美味しいしっかりとした日本酒を揃えていることで、無濾過生酒だけを注文していても酔っ払うことができる。我々は雁木を中心に飲んだ。さらに、美味しい日本酒と合うのは刺身と寿司、と考える私にとっては、ここは相当有り難い店だ。塩水ウニ、ツブ貝、平貝、赤貝、ヒラマサやサンマの焼き物などを注文したが、すべて満足。それで会計は二人で8000円台であった。
 以前、やはりマイク・モラスキーの文章を読んで「溝口」に飲みに行ったが、今回の西荻窪の方が個人的には好みであった。まあ、どちらも、人類が誇る文化遺産のような素晴らしい飲み空間であると思う。翌日、ヒカリエの小洒落たレストランに入ったが、そちらは清潔であるし、ちょっと洗練された感はあるが、西荻窪南口の飲み屋街に比べると何かが根源的に違っている。それは、後者には店と客のコミュニケーションがないが、前者にはおそらく強烈にあるということではないか。「戎」では、隣の客が「ノンアルコール」のビールを注文したら、「そんなものねえよ」(実際はある)と店員に罵られた。その客はどうも常連だったようなのだが、常連だからこそ甘えるな、というのがあったのかとも思う。言われた客もなんかばつが悪そうにしていたが申し訳なさそうにそれでもノンアルコール・ビールを飲んでいた。「消費者は神様」というのはサービス産業のマーケティングにおいては鉄則に近いが、その鉄則によって店は疲弊するし、それをあまりにも優先すると店がつぶれかねない。「戎」という店を支えているのはおそらく常連客であろう。その常連客であるからこそ、しっかりして欲しい、というのがその罵りにあったかと思う。そして、そういう店で、客は立派な客、消費者然とした客からちゃんとした客へとレベルアップできるのである。
 というようなことを考えさせてくれた「西荻窪」の飲み歩きであった。


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